会長定例記者会見(2024年7月17日)要旨
2024年7月17日
まず「グローバルサウスとの連携」について。
日本貿易会会長に就任するにあたり、グローバルサウスとの関係強化を一丁目一番地の日本貿易会の重点施策として掲げました。
言うまでもなく、国際社会は歴史の転換点にあり、米中の競争と対立、ロシアによるウクライナ侵攻、混迷する中東情勢、また英仏での選挙結果を見ても、分断と対立が深まるなか、適切なグローバル・ガバナンスのあり方を模索し、また深刻化する地球規模の課題や紛争に対処する必要があります。
そのためには、一か国や一部の国々のみでは対応はなしえず、台頭著しいグローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国を含む各国との協調、関係強化が、日本のみならずG7各国においても必要となっています。
先般イタリアで開催されたG7サミットでもグローバルサウスの存在感が従来よりもさらに増しており、その関係強化に向けてG7各国とも足並みを揃えているとの印象を持っています。
特に、食料・鉱物資源・エネルギー等を輸入に大きく依存する日本にとっては、グローバルサウスとの協働、そして何よりも成長するグローバルサウスの市場とその活力を取り込むことが、日本の経済発展や経済強靱化にとって不可欠です。
2050年には世界人口の3分の2を占めるとの予想もあり、経済成長の伸びしろは非常に大きいものがあります。代表格のインドは、モディ政権下でビジネス環境が改善していることを実感しています。また鉱物・資源、農業大国のブラジルは、日本の資源・食料の経済安全保障の観点でも重要な国です。グローバルサウスの国々から日本がパートナーとして選ばれるように、またこれらの国々の人材が日本企業で活躍できる、日本を働き場所として目指して貰えるような仕組み作りが必要と感じています。
昨日から東京で太平洋・島サミットが開催されており、11月にはブラジルでG20サミット、ペルーでAPEC首脳会議が予定されています。これらの機会をとらえて政府には、トップ外交や政策対話の深化、官民フォーラムの開催などを通じて重層的な関係作りを図っていただきたいと思います。
また、経済関係を包括的に拡大・深化させるEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)についても、南米でのメルコスールとのEPAの早期実現や、中東での湾岸協力会議とのFTAの早期交渉再開など、地球上の主要なマーケットで日本企業が競争相手国に対し劣後することのないようにこのような経済連携協定を結んでいくことが何よりも大事であると思います。
加えて、2023年6月改定の開発協力大綱の実装に向けたODAの拡充、国際協力の新しい仕組みの構築も期待されます。
日本貿易会としても、グローバルサウスの多様な国々に対するアプローチを政府や他の経済団体と一緒に考えながら、二国間あるいは地域間関係の強化に向けて、会員企業とともに取り組んで参りたいと考えています。
次に、「第7次エネルギー基本計画」について。
資源価格の高騰、電力料金の値上がり、電力需給のひっ迫、地球温暖化への対応と、エネルギーをめぐる課題が山積しているなか、国のエネルギー政策の指針となる新たな「エネルギー基本計画」の策定に向けた議論が始まりました。
現行の第6次計画が策定された2021年に比べてエネルギーを取り巻く環境は大きく変わり、DX促進、生成AIなどによる電力需要の増大が予想されるなか、温室効果ガスの排出削減目標の実現と、産業競争力維持につながる安定した安価な電源によるエネルギー供給実現という両立の難しい課題の解決が産業界に求められています。
一方で、化石燃料が再エネに置き換わるには時間を要します。計画性を欠いた化石燃料比率の引き下げでは経済や国民生活を維持できません。
現状の電源構成、需要見通しに即し、排出削減対策を講じた環境にやさしい火力発電、安全に最大限配慮した原子力発電などのあらゆるカーボンニュートラルへの対策を講じつつ、発電量の確保と低炭素化を両立することが求められます。
先月閣議決定された「骨太方針2024」では、2050年カーボンニュートラル実現に向けてエネルギー安全保障と脱炭素を一体的に推進する中で、産業競争力を強化し、強靭な経済構造を目指す方針が示されています。また年内の国家戦略策定を目指す「GX2040ビジョン」の議論も始まっています。
われわれ商社業界は、まさにビジネスの転換を通じてGXに対応する新しいビジネスモデルの構築、安定供給と低炭素化の両立を図るようなプロジェクトの実現を目指していきたいと思いますし、その為には、投資の予見可能性を高められるようなロードマップが今後政府から示されることを期待しています。商社業界として事業活動を通じて、持続可能なエネルギー供給を実現するための課題解決を図る役割を果たしたいと思っています。
質疑応答
(記者)2024年は年初に主要国の選挙イヤー、地政学リスクの高まり等が注目されたが、半年過ぎたところで、商社の経営環境をどのように見ているか、また年後半の注目点は?
(会長)政治的には民主主義が大きなチャレンジを受けていると言えると思います。インドでは、モディ政権の経済政策そのものは持続されると期待しますが、経済成長の恩恵を受けられていない層からモディ政権への反発が選挙結果に出ています。英国ではBrexitの影響が大きい中で、保守党のスナク政権の経済政策を見直す必要があるとの声が高まり、社会への分配を考える労働党へ動いていくという流れが出ています。
一方、世界経済全般は緩やかな回復基調を歩んでいると考えています。
我々商社は各社それそれで得意分野、得意国はありますが、地政学リスクが非常に高まっている状況だからこそビジネスの現場を特定国に偏らせず、世界全体を俯瞰していろいろな国、産業分野での事業形成を通じ、いい意味での分散、選択と集中を同時に進めることを通じて大きなサプライズのない経営、ビジネスモデルの強靭化を図れていると思います。
政治状況そのものを我々が予見することは出来ませんし、影響がないわけではありませんが、各社の経営努力によりトータルで見ると政治状況に左右されないバランスのとれたポートフォリオの構築やグローバルなビジネス展開が出来ていると思います。
年後半の注目点は、やはり米国大統領選だと思います。世界経済にとっての米国の位置付けの大きさ、日本にとっての最大の投資国であることを考えると、日米が協調してグローバルサウスとの連携を深めていくことは非常に重要と考えますし、どなたが政権をとられても官民協調し新たなビジネスがうまれるような取り組みを続けていきたいと思います。
(記者)米大統領選について。トランプ前大統領は保護主義的な政策でも知られているが、トランプ前大統領が当選した場合の影響をどのように考えるか?
(会長)まずは暴力に対して毅然たる態度をとること、国を問わず選挙活動のみならず安全対策、警護レベルの引き上げが必要と思います。
米国は大きな内需を持っていて新しいビジネスを作り出している国で、どなたの政権になっても、必要と考える方向へビジネスを引っ張っていく国。政権によって環境対策について若干の方針変更は起こり得ると思いますが、合衆国である米国の現地でのビジネスは、ワシントンがどのように変わろうが、州毎の考え方でビジネスが進められていて、カリフォルニアにはカリフォルニアとしての低炭素化に対する考え方の道筋がありますし、テキサスでは、CCU(Carbon Capture and Utilization)の装置を付けたプラントを稼働するなど、石油ガス産業を核とし如何に既存の石油ガスを低炭素化にもっていくかという取り組みを進めています。
民主党と共和党では、再生可能エネルギー、低炭素化に対する様々な方策について、考え方やスピード感の違いはあると思います。
一方、電気自動車(EV)の中国での過剰生産に対する米国の自国産業保護等の政策の方向性は、民主党と共和党で方向感は大きくは変わらないと思います。
(記者)米大統領選でトランプ前大統領が当選した場合の日本企業として行っておくべき備えは?
(会長)各社それぞれが考える分野でありますが、個人的な経験から申し上げますと、それぞれの州毎で分権化が進んでいる米国中でビジネスを展開している優良なパートナーといかに組んで仕事をするかが一番大事な点だと思っています。彼らは米国の中でいかに政治に左右されない強いビジネスを展開するかを常に意識しています。そのためには、日本にいてリモートで話をするのではなく、米国の中に入って米国人と一緒になってビジネスを作り、展開していくことが最も効果的であり、どなたが大統領になろうとも、ビジネス界としてはそれを徹底的に追求していくということが重要だと思います。
(記者)最近の為替動向についてのお考えは?
(会長)150円/$を超える円安は明らかに行き過ぎと思っています。日米の金利差などが要因と思いますが、日本の国力、経済の大きさを考えると、このレベルの円安が続くとは思っていません。一方、日本経済の強さが今後も持続的かというと、DX導入による生産性向上、産業分野の成長市場への転換をより進める必要があると思います。今ようやく日本へお金が入ってくる状況になっている中、持続的に海外からの資本、人材を活用するためには、日本企業ももう一段変わっていかないといけないと思いますし、その中では様々な分野で合従連衡ということも起こらないといけないと思います。外国の資本から継続的に投資をしてもらうには、よりスケールとスピード感のあるビジネス展開をする必要あると思います。それには、日本国内での需要を増やし新しい産業構造の転換を起こす必要があると思います。
当会として「内なる国際化」を掲げているのは、やはり資本と人材を日本に呼び込むその役割を当会、会員各社が果たすべきと思っており、そのような役割は為替政策、金利政策より重要だと思っています。
(記者)現実的なエナジートランジションを進めてく中で、現状の為替レートが続く場合、今後LNGの買い負けが起こる懸念についてのお考えは?
(会長)エネルギーにしても食糧にしても透明性の高い国際市場が出来上がっている商品は、世界の需給の中で価格決定され日本がその価格で買えるかどうかは日本の購買力次第と思います。
一方、LNGの世界は長期の売買契約があってはじめて大型投資が出来る分野です。日本は現時点では相対的に有利な形で長期の売買契約を持っており、その契約が失効するまでは日本が買い負けるということは起こらないと考えています。ただ今後既存の長期契約をどこまで延長するのかは、低炭素化の流れの中でどこまでガス火力発電を使うのかということを国のエネルギー基本計画の中で示していただく必要があります。世界のLNG需要がまだまた伸びる絵姿の中、個社の判断になる事項でありますが、日本のエネルギー政策と相まった形で調達できるようなプロジェクトは継続していくものと思います。
(記者)グローバルサウスとの連携促進における日本貿易会と他団体との取り組みでの進捗がもしあればお聞かせいただきたい。
(会長)ご指摘の通り官民協力して進める必要のある事項ですし、官の力を最大限引き出すには、民間側で連携して進める必要があると思います。例えばインドについて申し上げますと、日印協会を中心にして経団連、商工会、当会が一緒になってインドにおける日本企業がより投資しやすい仕組み作りなどを政府と一緒になって作ってくことが必要だと思いますし、その際には経団連、商工会、当会のおのおのの立場は一緒だと思います。
(記者)現在先進国の中で唯一保護主義でない政策を推進できている日本の優位性、商社ビジネスへ活かせると思われる点についてのお考えは?
(会長)保護主義というより、自国で完結が出来るか否かという観点で申し上げますと、米国はエネルギー、食糧、産業で自国完結が可能です。エネルギーの脱ロシアなどの課題はありますが、EUもEU域内全体では完結可能です。片や日本は一国で自己完結出来ず、保護主義になった時に最も立ち位置を失う国で、エネルギー、食糧にしても自国ですべてを賄えるはずもなく、経済合理性があるわけでもありません。そのような状況では、グローバルサウスとの連携、他の先進国との連携の中でWin-Winの関係をいかに築くかが残念ながら日本の立ち位置です。これまで日本企業はそれを強みに変えて全方位外交で、世界各国で現地企業と仕事を作りあげてきました。自国主義になればなるほど日本は成長余力がなくなり、かつ人口が減っていく中で、どうやって経済を回すのか、産業を興すのかということを考えると、海外との連携は不可欠と思いますし、その中で食糧、エネルギーを持っていて市場の成長余地が大きいグローバルサウスの国々といかに連携していくかを考えないと日本は生きていけないと思います。それくらい日本は過酷な運命にあるということを感じながら、政策作りや企業としての活動の方向性検討を進め、当会としてもそれをサポートする仕組み作りを政府、他団体と連携して進めていくことが重要と思いますし、日本が覚悟を決めてそれを行うことで、自国主義に陥らず将来の成長をグローバルサウスと一緒になって実現できると期待しています。