会長定例記者会見(2024年9月18日)要旨
2024年9月18日
まず「グローバルサウス、インド」について。
私が掲げた重点項目の一つであるグローバルサウスとの連携強化についてお話させていただきます。今朝開催された当会の常任理事会で、インド駐日大使であるシビ・ジョージ大使に「India-Japan Special Strategic and Global Partnership」とのお題で、インドと日本との連携深化に関するご講話をいただきました。
私自身、7月末に額賀衆議院議長の訪印ミッションに参加し、インドの政財界の方々と交流する機会を得ました。モディ首相との面談においては、額賀議長から「今後5年間で、IT業界の技術者や留学生など5万人以上の人材交流を行いたい」と提案をされ、モディ首相もこれに賛同されました。
また、インドの製造業振興政策である 「メイク・イン・インディア」に関連する分野、例えばGXや半導体産業についても幅広く意見交換を行い、インドビジネスのさらなる拡大に向けた取り組みに注力していくことを確認しました。
日本企業がインド市場で成功するためには、インド市場の特性を深く理解し、現地ニーズに合わせた製品やサービスを提供すること、現地のスタイルに合わせた経営を行うことがとても重要です。また、長期的な視点での投資と人材交流が求められます。企業が外国人材を受け入れやすい環境を整え、多様性と包摂性を高めることも、外国人材をこれから活用し登用していくうえで大変重要になると考えます。
前回7月の記者会見以降、私はインドのみならず、インドネシア、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドも訪問してきました。各国のビジネスの現場を直接見ることで、グローバルサウスの活力とポテンシャル、成長とより豊かになりたいという向上心をまさに肌で感じて来たところです。
次に、「自由民主党の総裁選挙」について。
現在行われている自由民主党の総裁選挙では、わが国の将来に関して活発な議論が行われていますが、現下の厳しい国際情勢の中、今年後半にかけて新総裁には重要な外交日程が控えています。
11月のブラジルでのG20サミット、ペルーでのAPEC首脳会議、ラオスでのASEAN首脳会議、アゼルバイジャンでのCOP29など、重要な国際会議が待ち構えています。また、インドのモディ首相やブラジルのルーラ大統領の来日も予定されていると聞いており、新総裁には各国のリーダーとしっかりと対話し、日本の国際的な存在感を力強く示し、またグローバルサウス各国との連携を含めて新しい各国のリーダーとの関係をしっかり構築していただくことも重要と思います。
次に、「日本貿易会の取り組み状況」について。
日本貿易会としては、グローバルサウス諸国との更なる連携強化を推進すべく、経済協力委員会にて、政府のインフラシステムの海外展開戦略に代わる「2030年を見据えた新戦略」に向けた提言を取りまとめています。
グローバルサウスとの連携、海外高度人材の活用などを通じた人材交流、アジアを中心としたGXの推進、官民連携に関わる具体的な提言を行い、自由で公正な貿易・投資環境の整備に結び付けていきたいと考えています。
最後に、「エネルギー政策」について。
現在、年内の取りまとめを目指し、脱炭素とエネルギーの安定供給確保、経済成長を同時に実現させるための新たな国家戦略「GX2040ビジョン」が議論されており、その根幹となる「次期エネルギー基本計画」と「次期地球温暖化対策計画」の取りまとめが議論されていると理解しています。
現政権は、「経済社会全体の大変革と脱炭素への取り組みを一体的に検討し、40年を見据えたGX国家戦略として官民が共有する脱炭素への現実的なルートを示すものにしたい」と述べています。
商社業界においては、まさにビジネスの転換を通じてGXに対応する新しいビジネスモデルの構築、安定供給と低炭素化の両立を図るプロジェクトの実現を目指していきたいと思います。その為には、投資の予見可能性を高められるようなロードマップがしっかりと示されることを次期政権に期待しています。
日本貿易会としても、今後も商社が持つ知見や経験を活かして政府と一体となって課題解決に取り組んでいく所存です。
質疑応答
(記者)グローバルサウス(GS)と行政の現状の関わり方への受け止め、及びそれを踏まえた次期首相による取り組みへの期待は?
(会長)
【デジタルトランスフォーメーション(DX)について】
日本が今後生産性を高めていくためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)を更に加速させる必要があると思います。
マイナンバーカード等の議論は認識していますが、例えば 海外のキャッシュレス社会に移行するスピードと日本のキャッシュを大事にする社会との差を海外に行くたびに痛感しています。
デジタル化には様々な問題があるのは認識していますが、データ保存、管理、支払いに関する追跡可能性の向上、決算業務の簡便性、行政サービスにおける利便性などの利点を考えると、デジタル化を進めることは日本の生産性を高めるためには不可欠と感じています。日本のデジタル化の進捗が、中国、インド、欧米に比べて明らかに遅れている現状は、デジタル化およびDXの遅れを示す証左だと思います。
日本にはIT人材はいるものの、各企業、各自治体が保有している古い小さな個別システムの維持管理に人手を割いてしまっており、新しいビジネスのモデル作り、大きな仕組みとしてのIT化、DX推進に割ける人手が足りていないとインド企業から指摘されています。この点を改善し、人材を育成する、或いは必要な人材を海外から招かないと日本のDX推進における課題は解決しないというのがインド企業による現状分析です。国際比較における日本のIT化、DXの現状を冷静に認識する必要があると思います。
インドから150万人の若者が海外へ留学しており、その内、米国には25万人が留学し、日本には1,500人です。移民国家の米国との単純比較は適切でないかもしれませんが、インド系米国人は約400万人、日本にいる在留インド人は約4万人です。経済規模や国の成り立ちを考えると、100対1です。
ジャイシャンカル・インド外相からは、日本で現状受け入れが進んでいない理由を分析し、日本社会、日本企業がIT人材やインド人留学生を卒業後に受け入れ、住みやすく、働きやすくする仕組みを作る必要があるとのコメントを頂きました。
企業がまず高度人材を社員として受け入れて登用していく仕組みを作っていく必要があると思います。
【アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想について】
日本は、2040年の再エネ社会への移行期間にどうやって技術を開発し進めていくかを考えていく必要があると思います。移行期間において必要な燃料(LNG、アンモニア、メタノール)を組み合わせた上で確保すること、エネルギーコストを下げるための原子力再稼働も含めた議論も必要であると思います。
日本の産業が2040年に向けて成長するには、移行期間でのエネルギーの安定的な供給と適切なコストを可能とするエネルギーミックスを議論した上で、2040年を語っていただきたいと思います。
シンガポールやオーストラリアではAZECに対し大きな期待があります。地球環境改善の為には、これから成長するアジアの国々においてカーボンニュートラルへの道筋をそれぞれの国にあった形にするか、同じ費用で日本よりオーストラリアの方がよりクリーンな環境を作れるのであれば、それをクレジットでどうシェアするかという議論になります。シンガポールも日本と同様に再生可能エネルギーの立地環境に恵まれていない国ですが、まわりのASEANの国とどのような枠組みを作っていけばいいのかというのがまさに議論になっているところです。
日本が提唱するAZECにおいて、日本はイニシアチブを発揮し、日本の中でのカーボンニュートラリティ達成のみならず、アジアの中での低炭素化推進でも日本が議論を主導することも重要と思います。その観点から次期首相には、ASEAN諸国の政治リーダーとの新たな関係の構築、AZECのようなイニシアチブを更に推進していくことを期待します。
(記者)130円/㌦台まで円高に振れた為替相場の現在の水準が日本経済、商社業界にとって適正な水準に近付いているかどうかの見解は?
(会長)(良い悪いということではなく)各商社が事業計画で設定している為替レートよりは円高に振れていると認識しています。地政学的事象、金融政策などの事象に為替相場、株式市場が過敏に反応しすぎているという印象もあります。日本企業の収益力の耐久力は高まっていると思います。
(記者)中東情勢の現状、商社業界への影響への見解は?
(会長)まずあまりにも悲惨な状況が続いていることを憂慮しておりますし、一刻も早い戦闘終了を願っております。
中東全体の不安定化の一番端的な影響はスエズ運河の通航がイエメン沖でのフーシ派の海賊行為で困難になっている状況です。
中東情勢ではありませんが、パナマ運河も水位の低下で通行量の制限を受けています。世界の航路の二大チョークポイントにおける地政学的理由と地球環境の変化の影響で海上輸送が影響を受けています。ビジネスへの影響は、輸送日数の長期化、輸送コストの増加、燃費改善の為の船の更新の遅延などがあげられると思います。
また世界で低炭素化に取り組む中、航海日数が増えることによる燃料消費が増えることの環境への影響や、国際的な対応の必要性を議論してもよいと思います。加えて、戦争行為自体の地球環境への悪影響もありますし、戦争の早期終結の実現と、これ以上の拡大がなされない為に国際社会が知恵を集めていく必要があると思います。
(記者)日本製鉄による米国USスチール買収について報道されていますが、民間企業の投資への政治的影響についての見解は?
(会長)日本は対米投資額では2023年まで5年連続首位と最大の投資国であり続けています。米国は日本にとって重要な投資先で、投資を通じて雇用を生み出し現地で商品を生産し経済発展に貢献しています。それだけ密接な関係を持っている最強の同盟国ですので、何よりも公明正大なルールに基づいて公正なる審査が行われることを求めます。
商社業界でも多くの個社にとって米国が最大の投資国と思います。これだけ世界が分断していく中で同盟国の重要性を日本政府から米国政府に働きかけていただきたいと思います。経済安全保障などの課題については国家レベルで話をしていただいた上で、自由で開かれた貿易投資体制を守るべきという自由主義陣営の同盟国としての対話のベースをもっておくことが何よりも重要と思います。
(記者)就任の際に言及していた「商社の見える化」を今後進めていく中でのお考えは?
(会長)当会の中でもいろいろアイデアが出ている中で悩んでいるところです。一番悩んでいるのは、オーディエンスを誰にして進めていくかという点です。商社の業容がそもそも各社多様で、総合商社もいれば専門商社もあり、オーディエンスを絞りこむ必要があると感じています。
極端な例で申し上げると、お子様或いは高校生に海外に対する興味、意識を上げてもらい、海外で仕事をすることの楽しさを伝えるのも商社の見える化の一つだと思います。
他にも対象は、消費者、転職業界といった方もいらっしゃると思いますし、 個社による対応となると思いますが株主、ステークホルダー、アナリスト、キャピタルマーケットといった方々もいらっしゃると思います。
そういった方々にどう働きかけをしていくか、どのように我々の機能や役割を伝えていくかをまさに当会の中で議論しているところです。