会長定例記者会見(2025年11月19日)要旨

定例記者会見

2025年11月19日

本日は、激動する国際情勢の中で日本が進むべき道について、特に高市政権への期待、米国との通商関係、そして本年の振り返りと来年への展望についてお話ししたいと思います。

まず、高市政権への期待です。先月発足した高市政権は、米国・中国・韓国それぞれの国の首脳との対話や、ASEAN・APEC等の国際会議で日本の存在感を示し、外交面で力強いスタートを切ったと考えています。

特に、物価高への迅速な対応や、経済政策の実行力・スピード感には大きな期待を寄せています。エネルギーや食料品など生活に直結する分野での価格高騰に対し、政府は機動的な支援策や価格抑制策を打ち出し、国民生活の安定に向けて着実な取り組みを進めようとしています。

物価高への対応は待ったなしであります。高市政権のスピード感ある政策運営により、国民生活の安定と経済成長の両立が実現することを強く期待しています。

また、税と社会保障の一体改革についても、持続可能な社会保障制度の構築と財政健全化の両立を目指し、具体的な議論が加速化しています。少子高齢化が進む中、負担と給付のバランスを見直し、現役世代・高齢世代双方が安心できる制度設計に向けて、政府の実効性のある施策の展開に大いに期待しています。

日本は今こそ、「成長型経済」への転換という歴史的な分岐点に立っており、財政健全化や産業構造の転換、人材投資、外国人材の活用など、迅速な政策対応が不可欠と考えております。

働き方改革については、労働時間規制の見直しや裁量労働制の拡大など、選択肢が広がっていますが、DXやAIの活用による生産性の革命と柔軟な働き方の確保が、企業の競争力や雇用の流動性向上に直結します。また、それが企業業績や働いている方々のやりがいにつながっていくものだと考えています。特に、日本貿易会の会員である商社の場合、世界中のパートナーと時差を超えて交渉を重ねる「Deal Oriented」な業務が多く、こういった柔軟な働き方を拡大していくことで、働き手の能力発揮と成長意欲の喚起につながっていくものと考えています。

外交面では、国際秩序の変動や地政学リスクの高まりの中、日米関係を基軸とした戦略的連携の強化が重要です。エネルギー・食料の経済安全保障、技術協力、サプライチェーン強靱化など、日米協調の重要性は今後さらに高まります。また、グローバルサウス諸国との関係強化も日本外交の新たな柱となり、人口増加と経済成長が期待される国々との協力を通じて、相互の経済的強靱性を高めていくことが、日本の国際競争力の源泉になります。

高市首相には、こうした内外の課題を乗り越え、未来に希望が持てる「力強い経済社会」の実現に向けて、リーダーシップを発揮されることを期待しています。

次に、米国との通商関係については、10月の日米首脳会談で関税合意に関する文書が署名され、両国の経済成長への強い意志が示されました。分断が深まる国際環境の中、日米関係の強固さを改めて内外に示した意義は大きいと考えます。

また、レアアースなど重要鉱物の供給網構築や、AI・次世代通信など先端分野での協力も確認され、経済安全保障に関わる日米協力が一層強化されています。7月の関税合意を踏まえた日米戦略的投資イニシアティブによる大規模な対米投資(約5,500憶ドル)についても、今後具体的なプロセスが進む見通しです。日本貿易会の会員各社でも様々なプロジェクトが検討されており、官民連携による事業展開が、民間企業の成長エンジンにつながることを期待しています。

本年最後の会見となりますので、2025年の総括と2026年の展望についても触れたいと思います。

今年は世界経済が高い不確実性に包まれた一年でした。トランプ大統領就任直後の「トランプ関税」は国際経済秩序に大きな影響を及ぼし、サプライチェーン再編や取引コスト・調達ルートの見直しが進みました。その中で、米中依存からの分散化や、東南アジア・インド・中南米・アフリカなどグローバルサウス諸国との関係強化が加速しました。

私自身も関西万博や現地国への訪問を通じて、シンガポールを始めとするASEAN各国、インド、ブラジル、ペルーなどの各国首脳や民間企業と直接対話を重ねてきました。インドではモディ首相との面談や日印経済合同会議を通じて中小企業の進出や人材交流を推進し、ブラジルでは経済フォーラムを通じて連携を深化させました。アジアではビジネス環境の変化に関する意見交換を行い、TICAD9ではアフリカ各国首脳との対話を通じて新たな協力の可能性も広がりました。

このように、「現場主義」と「共創力」をもって多様なパートナーと成長の機会を創出し、日本企業のプレゼンス向上と持続的な発展に取り組んだ一年だったと考えています。

来年2026年は、「自由で開かれた貿易・投資体制の維持・拡大」をいかに堅持し、予見可能性を高めていくかが問われる年になると思います。

米中対立の長期化や保護主義の台頭など厳しい環境の中、志を同じくする国々、特にグローバルサウス諸国との連携を一層深め、経済合理性に基づく信頼関係を構築し、ともに成長していく姿勢を示すことが重要です。

日本貿易会としては、会員企業の多様な知見を結集し、「自由で開かれた貿易体制」の発展に向けた活動を引き続き展開してまいります。

最後に、日中関係について少し触れたいと思います。日中関係はさまざまな課題を抱えつつも、アジアの安定と繁栄のために極めて重要な二国間関係です。中国は日本にとって最大級の貿易・投資パートナーであり、サプライチェーンやイノベーションの観点からも切り離せない存在です。一方で、地政学的リスクや制度面の違いなど、企業活動における不確実性も高まっています。こうした状況であるからこそ、「対話と協調」を重視し、経済関係の維持・発展に努めていくことが重要です。

日本貿易会としては、安全確保を最優先にして、官民で中国の関係当局・企業と冷静に情報共有を続けるとともに、人の往来とサプライチェーンを過度に止めない努力を続けたいと思います。交流の土台であるビジネスと人づくりを維持することが、両国の経済レジリエンスを高めるものと考えています。



質疑応答

(記者)柏崎刈羽原発について、新潟県知事が月内にも再稼働を容認するのではないかとの見方が強まっている中、どのように受け止めているか。

(会長)日本のエネルギー政策、エネルギー安全保障を考えた時に、バランスの取れた電源構成、特に安定供給、コスト競争力、安全といった要素は欠かせないものです。柏崎刈羽原発のみならず原子力については、安全性に対する地元の信頼を確保することを大前提として順次再稼働していくことが必要であろうと考えます。また、日本貿易会というよりビジネス界として、これから益々少子高齢化が進む中、DXやAIの分野拡大にともないデータセンターなど向けにさらに必要となる電力をいかに確保するかを考える必要があります。化石燃料に大きく依存している現況、油価や為替変動リスク、地政学リスクに伴う供給の安定性確保への懸念といったことを考えると、石油・天然ガス調達についても調達地域の分散が必要になってきますし、電源構成についても火力発電のみに頼らない原子力を含めた電源の追加開発による電源の分散化が必要になってくると思います。その流れの中で既存の原子力発電所の再稼働は重要だと考えています。

(記者)中国との関係について、現時点での最大の懸念事項は何か。レアアースの規制強化など、貿易規制が入ることをどの程度懸念されているか。レアアースや重要鉱物の確保で商社ができること、役割を拡大できることは何か。

(会長)短期的な話と中長期的な話を整理して、申し上げなければならないと思います。

現下の情勢は、若干過大反応をしているのではないかということは否めませんが、我々ビジネス界にいる者としては、外交問題に直接立ち入ることはできませんので、今までと変わらずに日中間の人材交流、共同事業といったビジネスをしっかり動かしていくこと、人の往来を途絶えさせないことが何よりも大事だと思っています。一方で、会員各社が現地に派遣している方々は、しばらく窮屈な状況が続くと思いますが、いたずらに目立つ行為をせず、沈静化するまでは周辺の環境に気を配りながら生活する必要があると思います。こうした状況の解決には時間をかけて、今までと同じように対話と交流をしっかり継続していく以外に方法はないと思います。国と国との関係がどうであれ、対話と交流の継続がビジネス界としての義務だと思っています。レアアースの問題については、現下の情勢が新たな供給不安につながる可能性がないとは言えませんが、ビジネスはビジネスとしてきちんとした対応を求めていくということが必要だと思います。

一方で、サプライチェーンの寸断が起こった時に一国にソーシングを委ねていることがいかにリスクであるかを世界中の国々は認識しており、中長期的には、重要鉱物について調達先を多様化することが結果的に消費国側のレジリエンスを高めることになると思います。そういう意味で、今後商社が重要鉱物の開発やプロセスに関わっていく機会は増えてくると思います。先般日米政府が発表した日米間の投資に関するファクトシートにも重要鉱物の案件が入っており、当該分野を得意とする企業においてはビジネスチャンスを見つけ、それによって結果的に供給の多様化が図られていくのが自然な流れだと思っています。

(記者)ロシア産エネルギーの購入停止について、日本に対するプレッシャーが欧米から強まっている中で、商社としてはどのような立ち位置で今後のビジネスに取り組んでいくか。

(会長)日本企業がロスネフチおよびルクオイルとの間で現在ビジネスをしているという認識はございませんし、ロシア産のハイドロカーボンを取り扱っているのはサハリン2だけだと認識しています。個別案件について触れるのは避けたいと思いますが、基本的な認識としては、日本のエネルギー安全保障の観点で必要なものについては、制裁から除外することについて米国や欧州諸国の了解を常に得ながら、制裁枠外として輸入継続が認められてきたと認識しています。また、欧州におけるパイプラインガスと違い、極東におけるLNGの需給環境に鑑みると、日本が輸入停止した場合、そのLNGは他国に流れて、結果的に日本がタームコントラクトで持っている契約よりも高い金額でスポット取引され、ロシアとロシア産LNG輸入国を利することになります。日本が有利な契約を棄てることでロシアが生産を停止するなら別ですが、そうでなければ、現時点で安全保障上どのような形がベストなのかを多国間の枠組みの中で話し合った結果として、制裁からの例外事項になっていると理解しています。今後も日米政府間の了解事項に基づいて進められることになると理解しています。

(記者)高市政権が掲げる17の成長戦略分野の中で期待している分野や、商社業界として注目している分野は何か。また、サイバーセキュリティの脅威が高まる中で、商社での対応においてどのような懸念があるか。

(会長)17分野の成長戦略分野によって戦略上重要なエリアをすべて特定されたと認識していますので。その中で重要度の優劣はないと思います。会員各社においては、それぞれの分野ですでに大きな仕事をしている、プラットフォームがある、ビジネスのネットワークが確立できているというのが、各社各様にあると思いますので、それぞれが強みを生かして各分野で経営資源を一層投入することによって、国の考えている方向と合致する形でビジネスを加速化できるかがポイントだと思います。戦略分野の選択競争でなく、どの分野でどれだけブースターをつけられるかの競争だと思います。また各社によって戦略や得意とするドメインは異なると思います。

サイバーセキュリティにおいては、サイバー攻撃が製造ライン、輸送、さらにはその結果として決算報告の遅延など、企業活動のすべての分野に大きな影響を与えることから、企業は自社システムの強靭性、復元性を高めるための準備を更に進めていかなければいけない状況と思います。いわゆる攻めのDXとして生産効率を高めることと同時並行で、システムの強靭性を高める必要性を想起させる事例がいくつも起こっており、まさに警鐘を鳴らされているということだと思います。プロテクションを作れば、さらにそれを乗り越えようとするアタッカー、ハッカーが出てくるということを想定して、常に継続して自分たちのプロテクションに隙がないか、本当に十分に強靭なのかをテストし続け、アップデートを繰り返していくことが必要だと思います。

(記者)高市政権の物価高対策について、財政への懸念がクローズアップされてきている中での評価と、長期金利の上昇が日本への信認に影響を与える中での商社ビジネスへの影響について伺いたい。

(会長)会員各社のビジネスにおいて、新しいビジネスを始める際にパートナーから信認度の評価が日本国の財政と直結するほど大きなビジネスはしていないので、個別のビジネスにおける我々の能力、財務体力、提供できる価値といった要素によって個別ビジネスのトランザクションが決まっていきます。日本経済に対する信用と個別の企業・業界に対する信用とは、必ずしも一緒にすべきではないと思っています。

また会員各社のビジネスにおいては、海外の新しい市場を切り開いて新たなビジネスを作り、日本の商品を売り込んだり、原料調達をしたり、あるいは日本企業と一緒に当該地域での合弁事業を立ち上げていくことが主流になっており、海外で稼いで日本に持ってくる利益が、国内で稼ぐ利益よりもはるかに多い状況になっています。その状況から考えると、日本経済そのものに対する信認と我々のビジネスとは必ずしも直結していません。一方、日本の貿易収支との兼ね合いで、製造業のリロケーションがこれまで起こってきたわけですが、結果的に国内産業そのもののレジリエンスが下がっているのではないかとの見方をされているとすると由々しき問題だと思います。海外でしっかり仕事をするためには、マザーファクトリーである日本の基幹工場がしっかりした母体になって、新しい商品開発をする人材を育成し、クラフトマンシップを磨き、それをベースに新たな価値を生み出して世界中の工場を通じて波及させていくのが、正しいあり方だと思います。

一方的な物価高対策により財政が緩むと、為替は円安に動いていくと思いますし、結果として日本の財政に対する信認の問題につながり、長期金利の上昇につながっていくという意味では、ワイズスペンディングを相当取り入れていかなければならないと思います。その意味では、税と社会保障の一体改革も同時並行して進め、例えば、応能負担を増やしていくとか、医療の分野では病院で本当にやらなければならないものを切り分けてOTC(Over The Counter)に持っていくあるいは病院外でサービスを受けられるようなことを考えるとか、様々な形で社会保障制度そのものを見直す必要があるといったことが構造的な課題になっています。高市政権はこれらすべての課題を片付けようとされているわけですから、これからどのような手を打っていただけるのか、期待しているところは大きいです。

(記者)グローバルサウスとの連携の加速について、もう一段高めていくためにはどのような点が必要か。

(会長)グローバルサウスといっても地域ごとに多様でありますが、まずもっと徹底してやらなければならないと思っているのはインドです。人口が14億を超え、安定したモディ政権の下で経済成長のスピードは物凄くある意味のブームになっています。ルールの不透明性や州ごとに異なる制度、人材開発に対する様々な制約が出てくる部分もあり、簡単な国ではないですが、世界中から新しいプレイヤーを惹きつけるだけの魅力を持った市場であります。また、人材供給力が最も高い国でもあり、マネジメントレベル、ITエンジニア、エッセンシャルワーカーなどあらゆるレイヤーでの人材供給力が高い国です。日本は、海外人材をいかに日本企業、日本社会の中で包摂的に受け入れていくことができるかを試されていると思います。働き先として日本を選んでもらうためには、その国で日本企業が活躍していることが何より大事なシンボルになってくると思います。相互効果があるという点では、かつてASEANと日本間で出来た連携を、インドを含めたバングラデシュなどの南アジア圏と進め、チャイナプラスワンとすることも1つの大きな要素だと思っています。

次に中南米です。日本からは遠く、日本の関税統計では貿易量がそれほど大きくないのですが、ブラジルに行けば世界最大の日系人社会があり、先輩たちが培った信頼に基づく日本企業や日本人、日系人に対する信頼が日本企業の差別化につながっているエリアです。日本からモノが出ていなくても東南アジアや北米から日本企業の製品が南米向けに輸出されています。日本と経済連携協定(EPA)が締結されていない地域に南米が挙げられます。ブラジルを中心としたメルコスール地域との経済連携協定の締結は、日本企業がこのエリアで仕事を進めていくためには重要だと思っています。すでにEUや韓国はメルコスールとの経済連携協定を締結する準備ができている状況なので、日本はかなり劣後しています。

それからアフリカです。アフリカは最後のフロンティアであり、TICAD9でも感じましたが、中国一辺倒ではいけないという意識を彼らは持っていますし、日本に対する期待は大きいです。日本から直接ビジネスをすることを考えるのではなく、インドを拠点にインドからアフリカを攻めることをすでに日本の四輪・二輪メーカーは始めておられます。インドには価格競争力があり、インド人のネットワークが東アフリカには歴史的に非常に深く刺さり込んでいます。そういった印僑の人脈を活用しながら、パン・インディアンオーシャンの中で、東アフリカからアフリカの中へ入っていくことを考える必要があると思っています。