会長定例記者会見(2025年2月12日)要旨
2025年2月12日
まず日米首脳会談についてお話しします。
今回両首脳が直接対話をし、日米同盟を新たな高みへと引き上げていくこと、「自由で開かれたインド太平洋」の実現へ向け、安全保障面ではクアッド、日米韓、日米比などの多国間連携の推進が確認され、「米国のゆるぎないコミット」が得られたことは極めて重要な成果だと考えます。
経済面では、日本の対米投資を1兆ドルに引き上げることや、両国のビジネス環境を整備して投資、雇用を拡大すること、エネルギー安全保障の強化も見据えた日本へのLNG輸出増加、AI、量子コンピューターや先端半導体等の開発で両国が世界をリードしていくことなど、多岐に亘る重要な議題が取り上げられました。
日本は5年連続の対米最大投資国であり、米国への直接投資残高は世界1位、雇用創出も世界第2位と多大な貢献をしている中、日本企業の対米投資が日米関係を深化させ、安定化させるために大変重要な役割を果たしていることを改めて確認する良い機会になりました。
その一方で、トランプ大統領は、貿易赤字、関税、USスチールなどで懸念を持っていることも明らかになりました。米国との各種ディールは今後も続くことになりますので、日本としては引き続き米国への貢献度をしっかりアピールしていく必要があります。トランプ政権の4年間で「対外投資額1兆ドルへの引き上げ」は、やや挑戦的な目標ですが、官民が連携して、しっかりと戦略的に対応すれば、十分達成可能な目標なのではないかと思います。
日本貿易会は、米国を最重要市場と位置付けており、会員企業各社による貿易・投資・雇用の創出を通じた米国の経済成長への貢献をさらに推進するとともに、米国経済界等との相互理解を深める財界活動を通じて、米国との関係強化に努めて参りたいと思います。
次にエネルギー基本計画案についてお話しします。
先ほど開催された当会の常任理事会では、日本エネルギー経済研究所の寺澤理事長に 「第7次エネルギー基本計画と今後の課題」 についてご講話をいただきました。
昨年12月、わが国のエネルギー政策の大方針を示すエネルギー基本計画の案が公表され、2040年度には再生可能エネルギーを最大の電源とし、AIの拡大等で電力需要が増えるため、原子力も安定電源として最大限活用する方針が示されました。
わが国の地理的、地形的な条件を踏まえれば、脱炭素電源である原子力・核エネルギーの活用は不可欠であり、国民の理解醸成も不可欠かと思います。
先般、私は北海道電力の泊原子力発電所を視察する機会を持ちました。安全確保を最優先とした新規制基準適合性審査への対応が進められており、再稼働に向けての現場の方々のたゆまない努力には非常に感銘を受けました。引き続き安全性の確保と地元の理解を大前提に再稼働に向けた歩みを進めていただきたいと思います。
先月タイとフィリピンを訪問し、タイでは工業大臣らとエネルギートランジションや脱炭素、循環型経済、農業・バイオ等について協議しました。バイオ燃料を含むフレックス燃料や日本の先端技術に結びつけたハイブリットシステムの推進、農業廃棄物の利用促進等について意見交換し、脱炭素領域での取り組み強化について確認しました。フィリピンでは内需拡大に向けたインフラ・農業など幅広い領域での意見交換を行いました。AZECなどの多国間協力関係を強化し、カーボンインテンシティを下げながら、ビジネスを推進していく努力を続けていくことが必要です。
エネルギーは産業競争力の根幹であり、新たな基本計画には地政学的緊張が高まる中での不透明な国際エネルギー情勢に対応しつつ、安定・安価なエネルギー源の確保と脱炭素の高い目標を実現していくことが求められます。日本貿易会としても、今後とも商社が持つ知見や経験を活かして、政府と一体となって課題解決に取り組んで参りたいと思います。
質疑応答
(記者)先般の日米首脳会談の結果にあえて点数をつけるとすると何点か?
(会長)点数をつけるような立場でないので定性的なコメントとさせていただく。
第一回目の首脳会談としては、大変上手い良い滑り出しだったと理解します。両国のお互いの立場をぶつけていくだけでは相互共通の理解は得られず、相互にコミュニケーションができる関係を作っていくことが重要な初対面の局面で、まずお互いを理解しあうという第一歩になったものと思います。我々商社パーソンにも相通じる仕事の進め方と思います。
(記者)日米首脳会談の後、鉄鋼、アルミへの関税が日本も含めて対象国になったことへの影響をどう見ているか?
(会長)鉄鋼、アルミニウムへの影響が直接どう出てくるかは非常に関心を持って注視し心配しています。対抗措置を既に表明している国もありますが、結果として、それぞれの国の産業競争力に影響を及ぼすことを危惧します。
先週、日本・カナダ商工会議所協議会合同会合でカナダを訪問しました。貿易戦争開始後真っ只中の訪問となったので緊張して訪問しましたが、現場はむしろ冷静でした。
米大統領の発言に対する感情的な反発も報道されていますが、カナダの財界人と話すと、 両国間で極めて一体化された経済が自動車産業等で構築されており、国境をもって遮断し関税を賦課することによる不利益を両国で冷静に話していくことが必要との見解でした。また両国間の課題は、違法薬物の取り扱いを含めた国境管理の適切な実行との意見でした。
エネルギー分野を除くと両国間の貿易はほぼ均衡しているというのがカナダ財界人の見解で、一方、エネルギー分野ではパイプラインの出し口(アウトレット)が現状米国向け(南向け)ばかりである状況から、東西向けアウトレットも作っていくべきという冷静な議論もありました。
また日本の資本・技術とカナダが持つ希少金属、米国EV車市場を連携させた日米加の 自動車分野でのサプライチェーンの連携作りといった議論もありました。総じてカナダ財界人は米新政権発足直後の初動への対応と冷静に捉えていました。
この様な米国への隣国カナダの対応は、中国の隣国である日本にとっても参考になるも のと思いご紹介します。
(記者)日米首脳会談後の追加関税、或いはLNG等の議論を商社業界としてどう見ているか?
(会長)追加関税については、今後注意しつつ影響を見ていき、その上でビジネスの流れを変えていくことも必要に応じ考える必要あると認識します。
大枠で言えば、先進国で唯一の人口増加国である米国市場は今後も最重要市場であることに変わりありません。日本企業が米国に最大の投資残高を持っているということは、それだけ現地に根差したさまざまな事業を持ち、それらの基盤を活かして資本、人材、技術移転を行い、結果としてWin-Winの関係をつくれる関係にあると思います。
個社ごとの判断になりますが、今後追加関税による相互反作用を経て、米国のみで成り立つ事業、米国内で産業を支える人材のリスキリング等が必要な事業、そのための時間軸といったことを検証していくことが必要と考えます。
LNGについては、個社ごとの話しになりますが、複数の日本企業が特にGulf地域において様々な事業を持っており各々の事業が拡張計画を持っているものと思います。各事業が持っている拡張計画と米国から提案のある拡張計画を比較しつつ、個社ごとに競争優位性、グローバルトレードのポートフォリオをどう組むか、日本のエネルギー安全保障にどう貢献していくかを考えていく必要があると思います。
一方、国内のLNG需要はいくつかのシナリオがありますが、基本的には需要は大きくは伸びない。その中で需要をどう伸ばすかを考えると、アジア市場を考える必要があると思います。
アジアの国々が今後より電力の多様化(特に石炭からの転換)を進める必要がある中で、日本がアジアでのガス化にどう貢献することが出来るか、それによって新たなLNGの市場を作れるかが重要です。結果として、LNG市場を拡大し、日米の利益につながると思います。
脱炭素化の流れの中で、火力発電と再エネの比率も勿論大事ですが、火力発電の中でも排出の少ない方向へ進めていくことも重要と考えます。
(記者)対米投資額の1兆ドルへの引き上げへ向けて、今後どのような分野への投資が牽引していくとお考えか?
(会長)ターゲットというよりは、今後のさまざまな投資を実行していくことで、結果として1兆ドルレベルへの投資残高引き上げか可能になるのではと思います。個社ごとに各々のグローバル戦略の中で米国内での投資分野は各社で多種多様なものと思います。
一方、一般論で申し上げると、自動車関連であれば米国内で工場の拡張を計画する中で、産業クラスターとして関連するサプライチェーンが拡張されること、或いは世界的な潮流のAI、半導体、データセンター分野関連の事業分野、それらのエネルギー源となる電力分野での拡張あたりは期待できる分野と考えます。
(記者)洋上風力事業の今後の将来性、課題についてどの様にご認識されているか?
(会長)個別の事業案件についてのコメントは差し控えます。
一般論で申し上げると、洋上風力の一基当たりの能力が大きくなってきたことに伴い、ブレードが大きくなり、ナセルも大きくなり、それらを支える構造物、土台が大きくなってきており、結果として、技術的課題が顕在化してきている状況と理解します。
また、大型化に伴い、投資額が増加し、結果として火力発電と比較した発電コストが上がってきてしまっています。
米国では、経済合理性の観点から風力発電から火力発電とCO2貯蔵のセットに重心が移りつつある状況と理解します。欧州では、ウクライナ侵攻以降、エネルギー危機に近いものが起こり、独の産業が相対優位性を失ってきて、エネルギーについて見直しを迫られている状況と理解します。
日本も同様で、現在の技術的課題、世界の潮流をみつつ、脱炭素化という目標を持ちながら、安定供給、コストの観点からどう現実解の見つけていくかという難しい局面にあると思います。
(記者)米国から新たに提案されているアラスカのパイプライン案件の将来性、日本勢の関与の仕方についてのお考えは?
(会長)現状米国から具体的な開発計画が提示されておらず、具体的検討のための情報が不足している状況であり、具体的な開発計画等の提示を受けて今後より具体的な検証が進められるものと認識します。