会長定例記者会見(2024年2月7日)要旨

定例記者会見

2024年2月7日

新年早々に能登半島地震が発生し、亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、被災された全ての方々に心からお見舞いを申し上げる。発生から1か月ほど経つが、報道等で拝見しているとまだまだご負担の大きな避難生活を余儀なくされている方が多数おられ、一刻一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げる。

まず「2024年の世界経済とリスク」について。
先月末、IMFが今年の世界経済の実質成長率を前回予測(202310月)から0.2ポイント引き上げて、前年並みの3.1%とする予測を発表した。ただ、ここにきて中東情勢の一層の緊迫化などが続く不透明な国際情勢を背景に各国の間の貿易、投資が滞り、景気減速に向かうリスクをしっかりと認識する必要がある。
中東では広範囲で米国と親イラン武装勢力の緊張が高まっている。ガザ情勢において依然停戦への道筋が見通せない中、昨年以来続いているイエメンのフーシ派による紅海での相次ぐ船舶攻撃に対する米英軍による反撃、1月末に発生した米兵殺害に端を発したイラク、シリアでの米軍による報復攻撃と、現時点ではイラン国内への直接攻撃は行われていないものの、紛争が更に拡大する懸念がある。中東地域を広く巻き込む事態に発展し、紅海とそれに連なるスエズ運河が封鎖されると、世界の物流に大打撃を与え、結果としてインフレを再燃させかねないだけに、一つの懸念と考えている。

また、中国経済の動向も一つの懸念である。IMFによると今年の成長見通しは、昨年の5.2%から4.6%と少し低迷し、不動産市場のさらなる悪化による家計支出の鈍化、高齢化の進行による潜在成長率の低下で、2025年にはさらなる減速(4.1%)が予想されている。中国景気低迷の背景には、米中対立の激化、グローバル化の後退や覇権主義的な動きへの懸念等による、海外からの中国向け直接投資額が急減していることもあげられる。

さらに心配されるリスクとして、地政学的な分断があげられる。昨年は、ここ数年見られた分断が一段と複雑化した年であったが、世界の対立構造が固定化し、ブロック化が更に進むかを注視している。米国の最大の貿易相手国は、中国からメキシコへと、すでにシフトが始まっている。ロシア産の原油は中国やインドが買っており、ロシアに対する欧米の制裁の効果を弱めている。
加えて、経済安全保障を動機とした貿易管理強化、戦略物資の国内製造とサプライチェーン強靭化を支援する主要国・地域の産業政策、自国または域内産業の保護・高度化を目的とした輸出制限措置も増える傾向にある。
今年は海外の動向にいつも以上に警戒を怠ることができない一年になるのではないかと思う。


次に「選挙の年幕開け、台湾総統選」について。
今年は世界が大きく変容する可能性のある要因が目白押しであるが、国際社会において政治的、経済的な影響度が高い国の多くで、国政選挙などの政治イベントが予定されている。
すでに113日には台湾の総統選と立法院選挙があった。頼清徳氏が次期総統として選出され、大きな混乱はなく、重要な国政を占う選挙が民主的に実施されたことを歓迎する。この結果は、米中間、日中間のみならず、価値観的な言い方で表現すると自由陣営と強権陣営とのパワーバランスや、グローバルサウス諸国との関係、各国の経済安全保障戦略にも影響を与えるものと思われる。当会としては、各国間の政治、経済におけるこれ以上の対立と分断が進むことを望まず、国際政治の安定と、法と人権に基づいた自由な貿易体制が維持されることを希望する。中国の対応は思ったより抑制的であったという印象を個人的には持っている。

そして、今後、ロシア、インドネシア、インド、欧州等に続き、11月には米大統領選があり、最も大きな影響が出る可能性があると考えている。
日本としては、大統領選の結果如何にかかわらず、安定的な二国間関係を維持することがボトムラインと期待している。


最後に「気候変動対策とエネルギー戦略」について。
今年は、おおよそ3年ごとに改定が行われエネルギー政策の基本的な方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」の改定が予定されている。日本だけではなく各国でも行われるであろうと思っている。エネルギー安定供給、低脱炭素化と価格競争力維持、DX促進、生成AIなどによる電力需要が極端に伸長する可能性もあり、現行の計画が策定された3年前からは状況が大きく変わっている。この中でどういうエネルギーのベストミックスが出てくるのか、更に言うと、2050年のカーボンニュートラル達成という目標が非常にチャレンジングになっている状況の中、これからの3年間どのように進めるのかを非常に注目している。

また気候変動対策については、昨年12月のCOP28で「化石燃料からの脱却を進める」という歴史的な合意が、産油国の賛同を得た形でなされた。また、成果文書の「UAEコンセンサス」にCOP史上初めて、炭素排出量を削減するための手段の一つとして「原子力」が明記されたことを歓迎する。
政策や制度の充実はもちろん重要であるが、温室効果ガスが具体性をもって削減されていくことも同様に重要である。再エネが化石燃料に置き換わるには相当に時間を要し、計画性を欠いた化石燃料比率の引き下げは一つのリスクだと思う。経済や国民生活に与える影響は大きく、温暖化ガス排出の極小化と両立させるには、原子力発電所の稼働も不可避である。エネルギーの対外依存度が高い日本にとっては極めてチャレンジングな状況が続くが、われわれ商社業界もこの課題に正面から向き合い、途上国のエネルギートランジションに向けた技術・資金両面での支援なども含め、事業活動を通じて課題解決を図る役割を果たしていきたいと考える。

なお、当会では「カーボンニュートラルと商社」をテーマに、昨年特別研究会を立ち上げ、会員各社のカーボンニュートラルへの具体的な取り組みを持ち寄り、商社業界としてカーボンニュートラルにどのような貢献ができるかを検討している。レポートができ次第ご案内したいと思う。

質疑応答

(記者)紅海における海上輸送の状況に関する見通しは?先日来の商社決算では現時点では影響ないとのことだったが、この状況が続いた場合、日本の貿易に与える影響は?

(会長)今のフシ派の件は、米国、イランともに抑制的であり、局地的にリスクを凝縮している状況。今後も突発的に局地戦が起こるリスクは考えておく必要あると認識。一方で米イランが外交的に強いパイプがあるか、という点は懸念。今後、米イランの対決構造が拡大することが最も大きな懸念。拡大することは世界が望んでおらず、自制的であっていただきたい。日本も含めて外交的な努力を続けていただきたい。一方、今後スエズ運河を迂回する必要性が更に高まると、運賃上昇、CO2排出量増、石油使用量増と必ずコストアップにつながる。スエズ、パナマ両運河がボトルネックであることが今後大きな問題になり得ると認識。商社のビジネスのみならず日本の貿易にとっても基本的にはコスト増要因。紅海での紛争リスクとパナマ運河渋滞はリスク要因として注視する必要ある。

(記者)エネルギーベストミックスについて。洋上風力を一層促進していく場合、国による入札、価格設定のあり方、バリューチェーンの作り方が果たして十分なのかについての意見は?

(会長)エネルギーのベストミックスについては、どのようなシミュレーションを見ても、2035から2040年までは特に発展途上国は化石燃料に依存する見通し。日本も2030年過ぎまでは化石燃料にある程度依存せざるを得ず、電力需要が伸びることを考えると、どのようにエネルギーのベストミックスを作って行くかについては注目している。その状況下、リニューアブル電源における洋上風力は一つの大きなポテンシャルであることは間違いない。大きくはないが、太陽光の余地もある。リニューアブル電源をどう活用するかは大きなポイント。その中で脆弱なグリッドの整備、特に北海道-本州、九州-中国の連系、糸魚川あたりの周波数変換地点といったボトルネックをどう整備するかを整理した上で、洋上風力、太陽光をどう活用するかということになると思う。
入札、タリフ設定については、制度的に問題なく、今後も入札を今の制度で進めていただければと思う。リニューアブル電源をどう促進していくかの前段階での国によるインフラの整備は相当多額の費用を要すると聞いているが、それを進めていただくことが大変重要だと思う。

(記者)中国経済に関して。中国の内需が厳しく外需頼みの中国の状況に関する見解は?

(会長)あくまで個人的な印象だが、昨年11月に米中首脳会談、日中首脳会談が開催された米国サンフランシスコで各方面から聞いたのは、これまで強硬姿勢だった中国に若干の変化がみられたという意見。中国経済の変調、不動産不況、内需の弱さ、株価低迷、対中直接投資の激減、といった要因に起因するものではないかと推測。先日、日中経協ミッションに参加して中国を訪問した。中国政府は強気ではあるものの、今後少子高齢化に直面すること、投資環境の透明化の必要性は認識している。一方、我々にとっても中国をデカップリングはできない。中国との距離感をどうとっていくかは非常に重要な点。

(記者)2月19日のウクライナ経済復興推進会議ではどのようなことを日本からアピールし、どのようなことを知りたいのか?

(会長)今回の会議は、戦後の復興が大きなテーマと認識している。戦争がどのように終わるかは別にして、戦後の復興需要が膨大にあるのは間違いない。特に欧州企業は既に提案を進めていると聞いている。いまだ戦争中ではあるが、復興需要に日本がどのような形で関与できるのか、日本がウクライナをどのような形で支援できるのか。非軍事分野での支援に関する日本の技術、民間への期待があると認識。

(記者)民間は何ができるのか?何を求めたいのか?

(会長)戦争中で渡航自粛地域なので、現地に行って提案をするというところまで一気には進まない。そのような状況で、最初の段階は、今できるSmall Scaleから始まって、昨年計上された補正予算も活用して今後のFSといった段階から始めるのが現実的。今後、実際に戦争が終わった段階で、もう一段大型の段階に進むステップと理解。
最初の段階として、スタートアップ企業数社(農業、IT等)、農業関連の支援、地雷の除去、橋梁等のインフラ関連企業が興味を示していると聞いている。

(記者)セキュリティクリアランスについて。法案提出に向けた準備は進んでいるが、企業の現場では従業員と企業との関係でどのような建付けになっていくのが望ましいか?

(会長)商社のビジネスで、機微な技術、先端技術に能動的にハンズオンで関わることはあまりない。現場感覚で気になるのは、直接リンクするかは別にして、本社、連結ベースで従業員の方々も非常に多様化してきている中、個人情報管理の観点からバックグラウンドに触れられないという点。今後の課題となり得ると認識。日本は世界の中でも機微技術、先端技術を持っている企業は多い。今後日本が草刈り場になるのは防がなければならない。セキュリティクリアランスに関する枠組みが無いことは課題だと思う。日本では今までそのような感覚が無かったと思う。そのような意識を持つことを促す意味でも議論することは意味があると思う。

以上