会長定例記者会見(2026年2月25日)要旨
2026年2月25日
本日はまず、第2次高市政権への期待について申し上げた上で、成果が問われる日米関係、そして日本の生産性の再構築について、産業界の立場からお話ししたいと思います。
まず、第2次高市政権に関してですが、先般の衆議院選挙における自民党の歴史的勝利は、高市総理に対する国民の強い信任を示したものだと受け止めています。選挙後、日経平均株価が史上最高値を更新したことからも、市場が政権の実行力や成長戦略に対して強い期待を寄せていることがうかがえます。
高市総理が掲げる「日本列島を、強く豊かに。」という方向性は、産業界としても共感できる点が多くあります。重要なのは、政策のスピードと実行力です。物価高への対応や社会保障制度の持続可能性、財政健全化と成長戦略の両立といった重要課題に取り組みながら、政府が一貫したメッセージを発信し、結果を出し続けることが、企業の中長期投資を後押しします。
とりわけ政権が掲げる成長戦略分野、その中でもAI・半導体、GX、DX、マテリアルなどの分野においては、商社の果たす役割は極めて大きいと考えています。商社各社は、それぞれの強みを活かした事業展開を一層加速させることで、日本経済の持続的成長と国際競争力の強化に貢献してまいりたいと思います。
次に、外交、とりわけ日米関係についてです。世界各地で地政学的な緊張が高まる中、日米関係を基軸とした戦略的連携の重要性は一段と増しています。日本経済にとっても、日米関係は最重要の基盤です。昨年の日米関税合意により、通商・投資環境をめぐる不透明感は和らぎ、日米共創に向けた土台が整いました。
先日、日米政府の戦略的投資イニシアティブにおける第一号案件が正式に決定したことは、日米の協力関係を具体的な形で前進させる象徴的な一歩だと受け止めています。ただし、同盟国であっても、経済の分野では成果がすべてです。第一号案件の経済性をしっかり確認し、これを着実に実行に移すこと。Win-Winの関係を作り、雇用や生産といった目に見える成果を出せるかどうかが、とても重要になると考えています。
一方で、いわゆる相互関税の米国最高裁における違憲判決、そしてそれに続く代替関税措置については全体像の把握と、引き続きその動向を注視していくことが必要と感じています。企業の立場から言えば、通商政策の予見可能性と法の支配は、事業判断の大前提になります。加えて、サプライチェーンの再構築には多額の投資と時間が必要であり、政策の方向性が短期間で変化する場合、企業にとっては大きな負担となります。その意味で、通商政策協議の中で、国家安全保障上の必要性と、企業活動の安定性、透明性、このバランスを丁寧に取っていっていただくことが重要と考えています。
日米経済関係において、制度についてしっかり議論することは必要ですが、個別案件ごとに事業性と実装力で信頼を積み上げていくことが何より重要と思います。商社業界としても、事業性、競争力、サプライチェーンの強靭化への貢献、こういった側面を丁寧に見極めながら、米国側と建設的なビジネスの対話を重ねていきたいと考えています。
来月には日米首脳会談も予定されています。日米同盟の強化に加え、エネルギーや食料を含む経済安全保障、先端技術分野での協力、サプライチェーンの強靭化などについて、具体的で実行性のある成果が示されることを期待しています。
また、グローバルサウスとの連携強化は、総理が掲げるFOIP、すなわち自由で開かれたインド太平洋の実現にも資するものです。今後とも、戦略的かつ力強いトップ外交が展開されることを望みたいと思います。
商社としても、グローバルサウス諸国において、資源・産業分野での協力や人材育成、共創型プロジェクトの推進などを通じ、持続可能で包摂的な成長に寄与していきたいと思います。
次に、働き方と労働生産性についてです。日本の成長力を左右する最大の鍵は、人材力と生産性の向上にあります。DXやAIの進展により、産業構造は大きな転換点を迎えています。
商社の現場でも、AIはすでにリスク管理や業務効率化、協業の高度化などで成果を上げ始めています。重要なのは、AIを導入することだけでなく、人がより付加価値の高い業務に集中できる環境を作ることです。そのためには、リスキリングを通じた人材育成と、役割・責任を明確にした業務プロセスの再設計が不可欠です。
成果と役割を重視する国際標準の働き方へ移行することが、AI時代の生産性向上の鍵になります。あわせて、デジタル投資や人材育成を後押しする政府の制度設計にも期待しています。
最後に、外国人材の受け入れについてです。人口減少が進む中、外国人材の受け入れは不可欠です。単なる人手不足対策ではなく、産業基盤とサプライチェーンを支える経済安全保障の一部として捉える必要もあると考えます。
国際基準に沿った人事制度やキャリアパスの整備、教育・言語支援、生活環境の充実などを一体で進め、日本が優秀な人材に選ばれる国であり続けることが重要です。商社ネットワークを通じて、グローバルサウスを含む各国で日本の魅力を発信し、人材育成と共創に努めてまいります。
最近、ややもすれば内向きや外国人に対する排斥的な言動も聞かれますが、日本は本来、技術、人材、信頼といった価値で海外から評価されてきた国であります。ルールに基づく、外国人の方々の日本社会への順応ということも重要でありますが、多様で包摂的な社会を作っていくことが、やはり優秀な外国人材が日本を選ぶために必要なことではないかと考えています。そして、企業が世界で稼いで、世界で学んで、その成果を日本に還流させ、その結果として賃金の分配や国内における拡大再投資につなげていく。この好循環を回し続けることが持続的成長の前提であり、商社業界として率先して果たすべき役割だと考えています。
日本貿易会として、自由で開かれた国際経済の維持・発展とグローバルサウス諸国との経済連携の深化、人材の交流に向け、商社業界の知見とネットワークを最大限に活用しつつ、政府と緊密に連携し、民間の立場から協力してまいりたいと思います。
質疑応答
(記者)米国の相互関税の直近の動向に関して、業界団体として還付あるいは補償に向けた働きかけを行う余地はあるか。また、商社が貿易、あるいは仲介を行うにあたって関税の変動、還付などを商社がどのような立ち位置で扱っているかを伺いたい。
(会長)日米間の貿易における商社のビジネスの形態は、時代を経て大きく変化してきています。かつては商社が日本メーカーの輸出代行を行い輸出者になっていましたが、時代を経て、メーカー自身が輸出入業務、在庫管理まで行うケースが増えてきています。現在は各社各様で、輸出入業務の比率が高い商社もあれば、輸出入業務をメーカーに返上し、米国で事業投資・事業の拡大を行う比重が増えている商社もあります。商社が関税をどの程度負担しているかは、自社が輸出者として輸出業務をどの程度行っているかで各社各様です。大きな影響を受けている企業は、還付を申告していくということと思います。その他の企業についても影響がないわけではありませんが、即座に米国に対して還付を要求すべきかどうかは、ある程度状況を見ながら対応せざるを得ないと考えている企業もあります。従って、個社ごとの対応にならざるを得ないというのが今の私どもの考え方です。一方、トランプ政権にとっての関税政策が一貫したものだということは理解しつつも、適用される法律や現場における実際の運用がどうなるかということが現状見えていないので、まず全体像を把握しないと対策の取りようがないということと思います。全体像を把握した上で、個別の動きをしっかりトレースして、個社ごとに自社の利益を守る最善の方法を考えていくということにならざるを得ないと思っています。もちろん、その結果として日本貿易会として動くべきという声が会員企業から上がってくれば業界として対応することもあると思いますが、現時点では個社ごとの動きになっています。
(記者)中国の商務省が、日本の20の企業などを輸出規制の対象にしたことについての受け止めとビジネスへの影響について伺いたい。
(会長)デュアルユース品を対象とした輸出規制に関する方針は1月に中国政府から発表されていましたが、個別の企業名を具体的に挙げるのは異例のことだと感じています。各社個別に影響を分析されていると思いますが、全体感としては、経済安全保障を語る上で、資源、エネルギー、食料のいずれについても、1つの国に依存しないということは非常に重要です。重要鉱物についても同じで、いかにして調達の多様化を図るか、一定の経済性をどのように担保していくかが非常に大事だと思います。調達の多様化に対する商社が果たすべき貢献は、メーカーの方々から期待されているところですし、経済性をしっかり検証しながら取り組んでいきたいと思います。尖閣諸島の時にも同様のことが起こったのですが、代替ソースを開発した後に中国が輸出を正常化すると、一気に代替ソースの中国品に対する競争力に差が出てきます。需要家側で一定のコストを払ってでもどこまで安定供給を確保しなければならないかという基本的な考え方をしっかり整理して、必要に応じて政府に値差支援のような形で支援をお願いしつつ、多少の環境変化にも耐えていけるような形で、供給先を多様化することが重要だと感じています。
(記者)レアアース開発に関して、調査段階の南鳥島沖でのレアアース掘削プロジェクトについて、期待感や商社業界として関わる余地があるのかについて伺いたい。また開発の重要性を考え、政府からの補助やサポートの必要性について考えも伺いたい。
(会長)海洋開発は、広大な排他的経済水域を持っている日本にとって非常に重要な分野だと思っています。一方で、水深5,000mを超える深海から固体・スラリーを引き上げる際のコスト、エネルギーを勘案した経済性については、地上にある鉱石からの抽出と比べながら実証していく過程にあると理解しています。その意味ではまだ長期的な取り組みとして考えていくべきことかと思います。こうした長期的な取り組みも含めて、政府による支援がないと民間企業のみの取り組みでは持続性を維持できません。また短期的に開発する必要のある代替ソースに関しても、環境が変わって安価な品が供給されても、供給を維持することを考える必要があります。そのためには様々な対応を考える必要があります。例えば、リサイクルをさらに進める、あるいは、レアアースを使わないで済む代替材料を開発するといった対応が、代替ソースからの持続的な供給を可能とする値差支援も含めた政策的な官民協力とあわせて必要になろうと思っています。そういった意味でEUや米国との共闘体制を作ることも政府レベルで議論いただければと思いますし、その中に官民協力のシステムをどのように組み込むかも非常に重要と感じています。
(記者)米国の相互関税に関する一連の事象を受けて、どのようなことを政府に求めたいか。商社のビジネス・貿易の相手国としての米国の位置づけに変化が生じないかについて伺いたい。
(会長)企業にとってビジネス活動を拡大する、あるいは新しい投資の意思決定をするためには、その事業に関するフレームワークであるルール・制度の持続性が非常に重要になります。さまざまな形で手を替え品を替えてくるのは、予見性という意味で不安が生じます。我々もさることながら、我々の事業パートナーである米国企業がどのような考え方なのかを十分に理解した上で進めていくことが必要だと感じています。商社各社が米国で事業を展開する際には、概ね長くアライアンス・パートナーシップを組んできた事業パートナーと展開することが多いです。今やっている事業をどこまで拡大するといったことを考えるとき、事業パートナーが今は慎重に対応しようというのか、内需が旺盛だから拡大再投資を続けていこうというのか、といったような事業パートナーの見解、業種ごとに様々なケースが考えられると思います。ビジネスの世界では個別の案件・事業ごとに判断していくということになろうかと思っています。政府におかれては、日米協議の中で、経済安全保障のためのさまざまな国際的な枠組みの構築を進めていただくとともに、米国での事業の予見可能性を高めることの必要性について、米国政府へ丁寧に説明していただくことが必要だと思っています。