会長定例記者会見(2026年5月20日)要旨
2026年5月20日
本日は、まず現下の中東情勢について、続いて先の米中首脳会談を踏まえた米中関係並びに日本の立ち位置についてお話ししたいと思います。その上で、日本貿易会会長としての最後の会見となりますので、この2年間の振り返りと今後への期待についてお話ししたいと思います。
まず初めに中東情勢です。何よりも強調したいのはホルムズ海峡の航行の安全確保、依然としてペルシャ湾に留まっている船舶、そして船員の皆様の安全確保を強く求めるとともに、事態の一刻も早い鎮静化と正常化を強く期待します。
中東は、日本にとって資源の供給先にとどまらず、自動車やプラント等の重要な市場でもあります。今回のホルムズ海峡の封鎖は、日本を含むアジアが、原油のみならずナフサや肥料、非鉄製品など中東からの供給に大きく依存している現実を改めて浮き彫りにしました。また、ナフサや化学製品、いわゆる誘導体のサプライチェーンは、日本単独ではなく、韓国、シンガポール、中国などを含むアジア広域の分業体制の中で成り立っています。
有事における短期対応としての代替品の手配については、商社各社がその本領を発揮し、調達先や輸送手段の確保のために様々なソリューションを提供しています。一方、長期化を見据えた対応も必要です。需要・供給双方のコントロールを含めた現実的な政策対応が求められています。官民一体となって、アジア全体のサプライチェーンの最適化・強靭化、代替調達先の多様化を進め、省エネ・節エネ対策と合わせて持続可能なサーキュラーエコノミーの実現を図っていく必要があります。その意味で、AZECなどの枠組みも活用しながら、具体的な対応を行うことが重要です。
加えて、紛争によって損傷を受けた中東湾岸諸国の石油・ガス関連施設やインフラの復旧、ホルムズ海峡を経由しない代替輸送ルートの強化も大きな課題です。ここに日本の産業界がどのような形で貢献できるか、中東との信頼関係をさらに深める上でも、極めて重要と考えています。
次に米中関係についてです。先週の米中首脳会談は、対立が続く中にあっても、対話を維持する意思を確認した点で、一定の意義があったと評価しています。
一方で、米中二大国の構造的な競争関係そのものが変わったわけではありません。この中で、日本の立ち位置は極めて重要と考えます。米国については、同盟関係を基軸に、経済・ビジネスの面でも不可欠なパートナーとして直接投資を拡大し関係をさらに深めていく必要があります。同時に、中国は最大級の貿易相手国であり、サプライチェーン上も切り離すことは現実的ではありません。政治的には厳しい関係が続いていますが、商社の立場から言えば、常に対話を維持し関係改善の糸口を探すことが必要です。
最後に、日本貿易会会長在任期間の振り返りと、今後への期待について申し上げます。先般公表の通り、5月29日の定時総会をもって、会長職を伊藤忠商事の岡藤会長CEOに引き継ぐ予定です。
私は2024年の就任時に、「フロンティアスピリットで未来を切りひらけ」を掲げ、グローバルサウスとの関係強化、内なる国際化、商社の見える化の3点を重点テーマとして取り組んできました。
特にグローバルサウスについては、日本企業の今後の成長に欠かせない主戦場と考えています。グローバルサウスの国々は、もはや受動的な存在ではなく、「誰と、どの分野で組むか」を主体的に選択する存在へと変化してきています。
このような環境下において、商社は資源・エネルギー、インフラ、食料、化学、モビリティー分野など、サプライチェーンの各段階に深く関与しており、そのネットワークと経験を活かし、グローバルサウス各国との関係をさらに強化していく立場にあります。
官民一体となってグローバルサウスとの連携をさらに前進させる中で、我々商社業界も、政府・各国産業界との対話を通じて、日本の存在感を高める役割を果たしていきたいと考えています。そして、その取り組みを結集する場として、日本貿易会の役割は今後ますます重要になっていくものと考えています。
最後に、これまでご支援いただいた関係各位、ならびにメディアの皆様に、この場をお借りして御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
質疑応答
(記者)経済産業省が政府職員のロシア派遣を検討することを発表したことについて、今回の派遣で期待されることは何か。
(会長)経済産業省が職員をロシアに派遣する予定があるということは、報道を通じて認識しておりますが、それぞれの会員個社がどのように対応するかについては存じ上げませんし、この場でお話する話題でもないと考えております。
(記者)イラン情勢の影響について、省エネ・節エネについて発言があった点について、今後はそういった政策も視野に入れて考えていく必要があるという趣旨か。
(会長)どれだけの時間軸で考えるべきか、現在の中東危機がどこまで続くかは誰も予見できないので、非常に難しい課題であると思います。アジア各国が現在行っていることを見ると、例えばインドにおいては、Work from Homeを積極的に利用して、交通・通勤に関わるエネルギー消費を抑える、あるいは海外出張を抑制しています。アジア各国では、既に長期化を視野に入れた形でエネルギーを節約する方策を打ち出している中、日本もサプライチェーンではアジアの中でクロスボーダーに組み込まれていますので、日本に石油の備蓄があるからといって節約せず使っていても、アジアの他の国で足りなくなった時に、その影響は必ず及んできます。そういう意味では、アジア全体でどのような形でエネルギー政策を考えていくのか、特に製油所の能力・性能、原油の性状によって、製品のいわゆる「イールド」といいますが、出てくる製品が変わってきますので、色々な代替原油を調達する中で、その原油を処理する製油所の能力あるいは性能によってどんな石油製品が出てくるかをもっと緻密に分析しなければならないと思います。
また、化学品について申し上げると、ご存知の通りナフサから出てくる誘導体は様々です。製品からは必ず副産物が様々な形で出てきて、そこに過不足が必ず生じるわけです。今までその過不足をクロスボーダーでやり取りをしてきたものが、こっちでは足りている、こっちでは足りないということがより顕著に出てきています。そういう状況下で、経済産業省が国内においては目詰まりを解消するために色々な業界、個社ごとに事細かく手段を講じておられるのは本当に大事な仕事だと思います。一方で、クロスボーダーで関係している部分にまで関与できるかというと、もう一段、国内だけではない対応を進めていかなければならないと思います。そういう意味で、アジア全体として長期化を見据えたエネルギーの節約や、その先を見据えて、どれだけ燃料転換を進めていくのか、あるいは、輸送業界で軽油の不足に備えて、代替手段としての燃料電池車あるいは電気自動車などの利用促進といったことも出てくると思います。様々な燃料のポートフォリオ多様化を考えていかなければならないところにちょうど来ているのではないかと思います。
(記者)ホルムズ海峡危機について、輸入に頼ってきたという日本の構造的弱点があった中で、商社としてどういったソリューションを生み出せるとお考えか。
(会長)今は有事ですので、短期的な対応として、サプライチェーンを途切らせないように、輸送設備や代替供給先を探して、かつ我々が有する与信機能や新しい取引先との関係を作るネットワークの力を活かして、短期的には物が詰まらないように、どうやって流していくかを徹底的に取り組むことだと思っています。それは、各社が努力しながら積み上げています。一方で長期的には、もう一度原点に返って申し上げたいのは、なぜこの地政学リスクがある中でも、中東からの原油調達に頼ってきたかという点をきちんと分析しなければいけないと思います。それは、価格競争力と増産余力・供給余力があるのが中東しかなかったためです。東日本大震災の後、原子力発電所が全て止まった中で、日本は火力発電所をフル稼働させなければならず、そのために重油、LNG、LPG、石炭を緊急調達するときに、石炭を除けば全て中東の供給余力に頼ったわけです。日本が震災後、大きな停電もなく過ごせたのは、一つには中東からの協力によるものだということを忘れてはならない。「サンマとカタール」というドキュメンタリー映画にあるように、カタールからは、LNGの緊急調達を増やしただけではなく、宮城県女川町の復興時にはサンマ漁における水揚げ後のサンマの冷蔵・冷凍等の設備、あるいは街並みの復活において、カタールからの基金の協力を仰いだわけです。中東と協力して、そういった復興を成し遂げた場所もある。色々な形で中東と日本は深い関係でつながっているということは、覚えておかなければならないと思います。中東との関係というと日章丸の話がいつも取り上げられますが、中東との間に作り上げた関係をこの機会にもう一度、さらに深めるためには、今度は我々が中東地域の復旧にどのような協力ができるかということが重要と思います。UAEのフジャイラ港に物を流す方策、あるいは、サウジアラビアにおける東西パイプラインの強化といったホルムズを経由しない代替輸送ルートの検討などといった長期的な取り組みを、日本がどのように協力していくか、調達先の多様化と合わせて進めていくことが、とても大事だと思います。
(記者)次期会長の岡藤正広伊藤忠商事会長に繋いでいきたいこと、あるいは期待することはどういった点か。
(会長)私が申し上げるまでもなく発信力の強い方ですので、引き続き商社業界を盛り上げていただきたい。特に、地政学リスクの課題や、世界がグローバリゼーションから分断に向かう中で、今度はリージョナルに、エネルギー安全保障の問題等を一カ国ではなく地域で考えなければいけない。その際に、グローバルサウスをどのように巻き込んでいくかを考えていかないと、集団的なエネルギー安全保障、経済安全保障は成立しないわけですから、そこに商社の大きな役割があると思いますし、ステークホルダーからの期待があります。この役割については、各社がそれぞれ強みを生かしながら仕事をしていくわけですが、日本貿易会という商社、並びに一部メーカーも入っているユニークな貿易に携わる団体として、経済安全保障にどのように関わっていくかを日本貿易会として発信していくことは非常に重要だと考えています。発信力の強い方ですので、しっかりとその部分はバトンをつないでいくことができると思っています。
(記者)イラン情勢に関して、現在の石油関連製品、原油、ナフサ、ガスの調達はどのような状況になっているとご認識か。先日の日韓首脳会談でも議論されたエネルギー調達等での連携、あるいは、エネルギー節約について、どのようなあり方が理想か。そこに商社としてどのように関わっていくべきとお考えか。
(会長)日韓両国の連携についてですが、国家間の取り決めとして、例えば備蓄された原油あるいはLNGの相互融通について、民間で能動的にできることはあまりないように思います。ただ、今後状況が許せば、共同商談のような形で日韓が協力して新しいLNGの開発をするということは起こり得るのではないかと期待しています。もう一つの期待は、造船分野での連携です。LNGを運ぶためのLNG船を現在日本では作っていません。この点は、政府の成長戦略の議論の中で、エネルギーを海外から調達する日本が輸送船を作らなくて良いのかという議論もありますが、単純に日本で新しく造船所を作るのではなく、大きな造船能力を持つ韓国と連携して、どのような形で造船協力を行うかというところまで発展するようにしなければならないと感じています。
エネルギーの需給については、高市総理が仰っているように、量は足りていると感じています。調達してくる量は足りているものの、製油所の能力・性能、原油の性状によって、出てくる製品が変わってくる、あるいは処理能力の限界を超えるといったことがあるので、足りている量からどのような形で最終的な製品になっていくのか、「マテリアルバランス」が色々なファクターによって変わってくるわけです。そうするとアウトプットが変わり、日本国内における流通量が変わってくる。その時に、足りなければ海外からどの程度補うのか、余っていれば海外と融通し合うのかという意味では、日本国内だけで自己完結する話ではないので、アジアの中での枠組みを二国間の話から、より面でアジア全域において、石油並びに石油化学製品のサプライチェーンが、入り口が変わることで今後どのように変わっていくのかを考えながら、目詰まりの解消をやっていかないと、日本の中だけでは完結しないということだと感じています。
(記者)個社ごとに中東情勢に対応されている中で、日本貿易会の機能として何が求められているのか。
(会長)日本貿易会は、平時は会員各社の声を集めて活動をしている団体です。他団体でも行っていますが、海外で会員企業が事業を行う時に他国と比べて税制上不利にならないよう、2国間のEPA/FTAをどういう条件で締結していただくかといったロビイング活動を行っています。我々が海外、特にグローバルサウスにおいて投資を行っていくには、透明性の高い制度、税制や会計システムといったものが必要になる中、投資の枠組みそのものを整備していただくということは、業界として要請していく必要があると思います。あるいは海外での子女教育は、駐在員・駐在員家族にとって非常に重要な共通の問題ですので、個社ではなくて、日本貿易会として海外に居住する日本人子女の教育に対してどのようなことをしてもらえるか政府に対して働きかけを行っています。
一方、有事において、個社の判断を超えて日本貿易会としてできることはありません。例えば緊急避難をどうするかなどは、個社が自らの社員の安全に関して責任を負うことに、日本貿易会として踏み込むことはないです。ただ、日本貿易会として各社の状況は把握しており、その中で会員同士がそれぞれの状況を参考にするという意味での連携は行われています。中東について申し上げると、一旦は総員退避という状況が起こりましたが、各社安全を個別に確認しながら、必要に応じてリモートワークと現地への帰任というコンビネーションで進めていると理解しています。
(記者)この数年間でトレーティングにおいて商社に求められる役割は、昔と比べて今は何が変わっているのか。
(会長)トレーディングにおける商社の機能は、本質的には変わってないと思いますが、相手国が多様化し、やるべきことの難易度は上がっています。例えば、ガスについては調達先の多様化が進んできていて、新しい国でLNGのプロジェクトを立ち上げることの困難さは上がってきています。既存案件の増設に比べると物凄くリードタイムがかかりますし、パートナーであるオイルメジャーとの信頼関係、何よりも大事なのはホスト国政府との長期にわたる官民連携が必要です。この連携においては必要に応じて日本国政府にも入っていただかなければならない。リスクは高まっており、インフレであるとか、プロジェクトコストをいかにしてマネージするかといった点は、以前に比べると相当難易度が上がっておりますが、今後の資源開発においても、今までの積み重ねがあるかないか、新しい国においてそのようなリスクを取れるかどうかというのは、企業によって変わってくるのではないかと思っています。