政府の成長戦略の下、2016年4月に女性活躍推進法が全面施行される等、女性活躍に関する取り組みが加速する中、商社各社においても、それぞれの目標を掲げ取り組みを推進しています。このような中で、当会においても会員各社のダイバーシティ(とりわけ女性活躍)推進に関する取り組みを支援するため、ダイバーシティ推進コミッティを人事委員会の傘下に設置し活動しています。
2月28日、同取り組みの一環として、「商社ウーマンのトップランナーによるパネルディスカッション」(第7回ダイバーシティ推進セミナー)を開催しました。商社業界では、女性役員・管理職比率はまだまだ低いという状況があります。そのような中で、現在、役員・管理職(部長クラス)として、先陣を切って活躍する商社ウーマンは貴重なロールモデルです。今回、ダイバーシティ推進コミッティ座長を務める本山ふじか氏(住友商事 人事厚生部課長労務チームサブリーダー)をモデレーターに、伊藤忠商事、住友商事、三井物産、三菱商事より、部長クラスの女性にご登壇いただき、現在に至るまでの経験談(現在の仕事、これまでのキャリア、心掛けてきたこと、後進へのアドバイス・期待等)について発表いただいた後、パネルディスカッションを行いました。
冒頭、小林会長より、「どんな組織においても、女性活躍推進はじめダイバーシティ推進はマスト」と取り組みの重要性について、力強いメッセージをいただきました。
会員商社からの女性社員約120人で会場は満員となり、参加者は熱心に耳を傾け、質疑応答も活発に行われました。さらにその後の交流会も、商社業界の横のネットワークづくりの機会となり、大変盛況でした。
参加者アンケートでは満足度の高い評価となり、「モチベーションアップにつながった」「仕事に向かう姿勢を見習いたい」「今後のキャリア形成の参考になった」「勇気が出た」「またぜひ体験談を聞きたい」という前向きな意見が多く寄せられました。他方、商社業界に残る古い体質に悩む声もあり、経営トップや男性も交えたセミナーを希望する声もありました。今後も、同様のセミナーやパネルディスカッションを企画・開催していきたいと思います。

- パネリスト
富田 亜紀 氏
- 住友商事㈱ コンプライアンス推進部長
- 1989年入社、2016年同社法務部副部長、2017年4月コンプライアンス推進部長。入社以来法務畑を歩み、メディア・生活関連事業部門、金属事業部門等の法務業務を担当。現在は主にコンプライアンス施策の企画・啓発等に取り組む。2017年4月から現職。
「信頼を得るために〜全力で取り組むことの大切さ」
「私が入社した頃は、女性総合職は約120人中3人ととても少ない状況でしたので、法務部で女性担当者として信頼を得るためには、非常に時間がかかりました。自分としては一生懸命やっているつもりでしたが、喜ばれる仕事ができないと悩んでいた時期が長くありました。そのような中で、ある時(14年目)中規模のプロジェクトで法務の担当を任され、最初のデューデリジェンスから契約交渉、クロージングまでほぼ一人でやり遂げた機会がありました。これが転機となり、歯車がうまくかみ合って、仕事により深く没頭するようになり、相手の求めているものに全力で応えられるような仕事ができるようになった気がします。今は、昔と違って、会社も社会も本当に様変わりしていますので、あらゆるチャンスがあると思います。これからはもっと変化のスピードが速いでしょう。皆さんには、自分の直感に従って、働くこともプライベートも勉強することも、貪欲にチャレンジしていただきたいと思います」

- パネリスト
菊地 美佐子 氏
- 三井物産㈱ 環境・社会貢献部長
- 1984年鉄鉱石部に入社。その後、広報部に異動。社内報を皮切りに企業広告などさまざまなコーポレートコミュニケーション業務に従事、2001年に編集制作室長。ダイバーシティ推進室立ち上げ時の兼任メンバー。2006年CSR推進部の創部メンバーとしてコーポレートブランド戦略室長、2009年同部地球環境室長、現部名への変更を経て、2015年4月から現職。
「いい意味での鈍感力を」
「上司や同僚等からいただいた自分の心に響いた言葉を紹介させていただきましたが(右資料)、加えて、ぜひいい意味での『鈍感力』を身に付けていただけたらと思います。女性はとても真面目に取り組むが故に、考え方や視野が狭くなり自分を追い詰めてしまうことがあると感じています。『なんとかなるさ』と、いい意味での鈍感力をぜひ意識していただけたらと思います。それから、コミュニケーションも非常に大切です。上司は部下をきちんと育てていかなければならないので、部下の思いを知りたいと思っています。一人で悩まず、ぜひ上司とのコミュニケーションを大切にしていただきたいと思います。また、あまり心配しないことですね。心配事の9割は起こらないと、ある本に書いてありました。私も転機を迎えるたびに大丈夫かな、私に部長の仕事ができるのかなと悩んだりしました。3年がたちましたが周りの助けもありなんとか続けています。やる前にくよくよ悩まずに、一歩踏み出してみることが大切です。これから女性への期待はますます高まっていくでしょうから、ぜひ皆さん頑張ってください」

- パネリスト
石塚 真理 氏
- 三菱商事㈱ 丸の内キャピタル(出向)代表取締役副社長
- 1993年化学品グループ入社。MBA社費留学(米コロンビア大)後、M&A担当部署に帰任。ローソンとの合弁やREIT運用会社に出向後、ロンドン単身赴任中の夫に娘を連れて合流すべく退職。1 年弱で帰国・復職。本店で本部戦略企画室長を経験し、2016年3月から現職。
「そなえよつねに」
「現在のポジションは自分で判断しなければならないことがたくさんあって、ある意味孤独でもありますし、間違った判断ができないという責任の大きさを感じています。大変な面もありますが、意思決定の醍醐味があります。自分の判断でルールを変えることができる。そうしたことで貢献できることがあるんじゃないかと思うのです。一方で、発言の影響力も大きいので、発言には慎重にならなくてはいけないとも感じています。また、自分がスーパー担当者としてフル稼働すればよかった頃とは違って、社員のパフォーマンスやモチベーションを上げることを日々、心掛けて試行錯誤しています。女性であることは個性の一つ程度だと思いますが、多様な経験ができるのは、やはり女性の強みですので、その強みをCompetitive edgeとして育てる感覚があってよいのではないでしょうか。ダイバーシティで求められるのは、単なる女性的感性ではなくて、経験に裏付けされた多様な視点と柔軟性だと考えます。『そなえよつねに』というボーイスカウトの標語があるのですが、とてもいい言葉だと思って意識しています。女性は特にライフイベント等でいろいろなことが起きますので、普段から準備しておくことが重要です。これからますます、女性の活躍の機会が増えると思いますので、『そなえよつねに』。いつも誠意を持って仕事をしていると、必ずチャンスが降ってきますので、降ってきた時に自信を持って受けられるように、日々努力していただければと思います」
パネリストの皆さま、各社ダイバーシティ担当者の皆さま、パネルディスカッション開催に当たり、ご協力をいただき、大変ありがとうございました。
総合商社という世界で、各社の女性トップランナーとして活躍される方々は、さぞかしバリバリガンダムかと想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、しなやかにいろんな工夫をされて、努力もされて、どんな場面も「なんとかなるさ」と乗り越えて、誠意を持って仕事を続けてこられた結果、現在のポジションに就いているという印象を受けました。こうした方々が、これからの時代の新しい女神型リーダーシップを発揮されて、多くの女性が後に続き、活躍されることを期待してやみません。
(政策業務第三グループ 統括主幹 中村志保)