商社が分かる

商社のダイバーシティ~Diversity & Inclusion~

~Voice~ 活躍する商社パーソン
「これまでの知見・経験を活かし、
第二の人生にも充実感を得られるために」

2021.11.15シニア活躍

中邑なかむら ひろし

外務省経済局 資源安全保障室 課長補佐

三井物産㈱でエネルギー分野等を担当し、2004−08年オマーン駐在。子会社の社長を務め、2019年に定年退職。その後外務省の任期付き職員に応募し、2021年4月入省。現在は、国際会議の省内調整やエネルギー、食料安全保障政策・戦略、安定供給などに関する外交政策を担う。

人生100年時代を迎える今、シニアの活躍に期待が高まっています。インタビューの第7回となる今回は、総合商社を定年退職後、その経験を活かして外務省で活躍されている中邑宏さんにお話を伺いました。第二の人生の選択肢を広げるきっかけとしてお読みいただければ幸甚です。

再就職でつかんだ新たな道

乙咩:本日はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、三井物産から外務省に再就職された経緯をお聞かせください。

中邑:こちらこそ貴重な機会をいただき、うれしく思います。私は、新卒で入社した三井物産を60歳で定年退職しました。その後は再雇用という選択肢もありましたが、自分の持っている知見やキャリアを活かして新たなことに挑戦したい気持ちで、再就職を決意しました。元々は民間企業への再就職を考えており、人材派遣会社や転職エージェントを活用したり、企業に直接応募したりしていましたが、書類選考で断られることも多く、想像以上に厳しい道のりでした。総合商社出身とはいえ、簡単に再就職先が見つかるものではないのだと痛感しました。

そのような時に、たまたま知人から省庁の採用ウェブサイトの存在を教えられ、外務省の任期付き職員に応募しました。それまで省庁で働くことは選択肢にありませんでしたが、外務省であれば自分の知見やキャリア、海外駐在の経験が活かせる場所だと思い応募した結果、無事採用試験を通過し、2021年4月に入省することが決まりました。

再就職の活動期間は1年半と決して短くはなく、このままでは難しいかもしれないと思った時期もありましたが、選択肢を民間企業から省庁に広げることで、ようやく新たな道を見つけることができました。

外交政策の一端を担うやりがい

元々は海外に自分の夢を広げたいという思いで三井物産に入社しました。中東への駐在は予想外でしたが、とても貴重な経験をさせていただきました。


オマーン国マスカット市内のグランドモスク前にて

乙咩:現在はどのような業務を担当されていますか。

中邑:入省後はエネルギー・鉱物資源分野や食料分野の業務に携わり、G7やG20、国際機関などの会合に向けた資料づくりや省内調整、国会対応、所属部署の業務サポートや雑用など、幅広く業務全般を行っています。コロナ禍で頻繁に海外出張に行けない今はオンラインでの会合が多く、時差の関係で深夜や明け方まで会議が続くこともあります。けれども、テレビで報道されるような国際会合に少しでも関わっていると思うとワクワクしますし、外交政策の一端を担う外務省ならではの仕事にやりがいを感じています。これまではビジネスとしてエネルギー分野に関わってきましたが、今は同じ分野でも国益を第一に考え、マクロの視点で捉えることに面白さを感じています。

省庁は働き方改革が進んでいないという印象を持っている人も多いと思いますが、実際は在宅勤務やクールビズなどに積極的に取り組んでいます。また外務省の特徴として、他国との折衝など対外的な業務が多いので、想像していたお堅い役所のイメージはなく、明るく風通しの良い雰囲気です。

働く上で大切にしていること

乙咩:部署の雰囲気はいかがですか。

中邑:全員で20人弱が働く現在の部署はとてもオープンな雰囲気で、ありがたいことに上司や同僚にも恵まれています。全員が自分より年下ですが、それは承知の上で入省したため特にギャップを感じることはなく、皆フランクに接していただけるおかげで、年齢の差を感じることはありません。

周囲とのコミュニケーションを図る上で大切にしていることは、伝え方です。経験が長い分、仕事上で重要なタイミングや時にはリスクに気付くことがあります。そのような場面で自分のノウハウや知見を若い職員に伝えていくことは大切ですが、年長者だからといって指導者的・管理職的な言い方にならないよう気を付けています。頭ごなしに否定するのではなく、外務省の文化や風土を守りつつ、周りを見ながら発言するようにしています。商社出身者である自分という異分子が入ったことで新鮮な空気を生み、少しでも外務省のイノベーションにつながればよいと思っています。

外務省で働く上で意外と苦労したことが、省庁用語やルールを覚えることです。また、仕事の流れも商社とは全く違うので戸惑うこともありましたが、上司や同僚に支えられ乗り越えています。

第二の人生の道を広げてほしい

趣味は音楽を聴くこと。特にベートーヴェンの交響曲第5番、7番は面接のときに願掛けを兼ねて気分を盛り上げるために聴いていました。


商社時代、豪州パース市内への出張にて

乙咩:後進にはどのようなことを伝えたいですか。

中邑:定年退職した後の第二の人生の歩み方は人それぞれだと思いますので、今回は私の経験がこれからの人たちの選択肢を広げるきっかけになればと思い、インタビューをお受けしました。第二の人生として、新たな場所でキャリアをスタートすることにはハードルを感じる人も多いと思います。冒頭でお伝えしたように、実際私の再就職活動は想像を超えるものでしたし、入省後も業務が多岐にわたり大変なのも事実です。時にはある程度の割り切りが必要ですが、このように考えられるのも過去のキャリアがあるからです。また何よりも、今しかできない経験があります。新たな目標に向けてチャレンジする喜びや今までのキャリアを活かせる充実感を味わえることは間違いありません。まさに、第二の人生でさらなるキャリアアップができて、自分の人生に新たな1ページを加えられると思います。

全く違う環境に飛び込む覚悟は必要ですが、私のように再就職を考えている人がいれば、民間企業だけでなく外務省などの省庁も視野に入れてほしいと思います。特に、商社は海外経験が豊富な方も多いので、その経験を活かせる職場として意外とマッチする人が多いかもしれません。

また再就職の場合は、今後何十年と働くのではなく、ある程度期間が限られますので、ゴールを明確にセットすることができます。私自身、外務省での勤務は2年という期間限定ですので、今は悔いなく最後まで任期を全うすることを目標にしています。その後のことはまだ分からないですが、働く意思があればまた別の道に進んでいるかもしれません。何事も前向きに、笑顔を絶やさず、今後も活躍できる場を見つけていきたいと思います。


インタビューを終えて

終始笑顔でインタビューにお答えいただいた姿からは、これまでどんな環境にも柔軟に対応されてきた中邑さんのお人柄が垣間見えました。
勇気と覚悟をもって挑まれた外務省への再就職のご経験は、きっと多くの人の心に響いたのではないでしょうか。
中邑さん、改めて貴重なお話をありがとうございました。ますますのご活躍をお祈りしています。

政策業務第三グループ 乙咩愛海