商社が分かる

商社のダイバーシティ~Diversity & Inclusion~

~Voice~ 活躍する商社パーソン
「阪和興業の障がい者雇用の取り組み
〜戦力化した組織づくりを目指して〜」

2022.09.15障がい者雇用

つじ 敏彦としひこ

阪和興業株式会社 人事部
ダイバーシティ推進室長
(日本貿易会ダイバーシティ推進コミッティ委員)

1991年阪和興業入社。2010年まで鉄鋼製品の営業を担当し、2011年人事部に異動。採用・研修等の業務を経て18年から障がい者雇用をはじめダイバーシティ全般を担当。

個々人がそれぞれの希望やスキルに応じて活躍できる社会を実現するために障がい者雇用が進められています。企業は「障害者雇用促進法」に基づき、労働者数の2.3%に相当する障がい者を雇用することが義務付けられており(2022年9月現在)、商社業界でも企業としての社会的責任ならびにダイバーシティ&インクルージョンの一環として、各社でさまざまな取り組みが行われています。今回は、障がい者雇用に積極的に取り組む阪和興業株式会社の施策を、辻ダイバーシティ推進室長をはじめ社員の皆さんにお伺いしました。

阪和興業における障がい者雇用

当社は法定雇用率の達成はもちろんのこと、戦力化した組織づくりを目標とし、障がい者雇用に取り組んでいます。2018年ごろから障がい者の採用を強化し、現在は靴磨き事業(2人)、完全テレワーク勤務(14人)、本社勤務(25人)の三本柱で障がい者雇用を行っています(障がい者雇用率:2.5%)。今回は、当社の特徴でもある靴磨き事業と完全テレワークの取り組みをご紹介します。

①「株式会社革靴をはいた猫」と提携した靴磨き事業

2020年4月に京都にある靴磨き専門店「株式会社革靴をはいた猫」(以下、革猫)と業務提携を結び、靴磨き事業に取り組んでいます。革猫は、障がいのある人を戦力として靴磨きを行う会社で、関西を中心に店舗の展開や靴磨きの出張サービスを行っています。当社で雇用した障がい者2人が革猫の靴磨き職人の一員として、業務委託を請け負う形で活躍しています。


阪和興業本社での靴磨きの様子

私がダイバーシティの担当になった2018年ごろ、社内業務の切り出しなど従来の障がい者雇用の取り組みは継続しつつ、障がいがある人の特性や強みを生かし新たな事業を進めようとしていたところ、革猫の存在を知り店舗に飛び込んだことが事業を始めるきっかけとなりました。

当初は、靴磨きがビジネスにつながるイメージが湧かなかったのですが、「人のために何かを行い、それに対して対価をいただくことこそがビジネスの原点だ」と考えていた私は、実際に磨かれた靴の出来栄えはもちろん、そこで働く人のまっすぐな姿勢を目の当たりにして、事業展開につなげられるという確信を持ったのです。そこからまずは、革猫の出張サービスを当社および当社の取引先へ展開することを計画し、2020年に業務提携を結び本格的に事業展開を開始しました。

この2年間、コロナの影響で思うように進まない時期もありましたが、現在も関西の企業を中心にオフィスを訪問し、会議や休憩中などに靴を預かり磨くサービスを行っています。さらにサービスを拡大していきますので、靴磨きのご要望があればいつでもお声掛けください。

問い合わせ先:06-7525-5451
革靴をはいた猫ウェブサイト:https://kawaneko39.com/

【靴磨き職人として働くお二人】

靴磨き職人歴4年。2018年の革猫立ち上げ当初から携わるメンバーの一人。当初は人とコミュニケーションをとることが難しかったが、今では受付など接客全般を担当。お客さまの喜ぶ顔を見ることが一番のやりがい。知的障害。
養護学校を卒業後、清掃会社で約20年間勤務。テレビで革猫の存在を知り、2年の修業期間を経て2020年4月に阪和興業に入社。抜群の集中力でどんな靴もピカピカに磨きあげる。知的障害。

②完全テレワーク勤務

コロナ前の2018年から完全テレワーク勤務の障がい者雇用を行っています。北は北海道から南は熊本まで、計14人の社員が人事部内に設置した業務サポートチームに所属し、営業・管理部門から切り出されたサポート業務を担っています。

完全テレワークの雇用に踏み切った経緯は、2017年までさかのぼります。当時、厚生労働省が実施していた「障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業」に参加する機会があり、先進企業・自治体の視察や社内研修・トライアルなどを行いました。元々私はテレワークに懐疑的だったのですが、この支援事業に参加したことで、テレワークでも十分業務が遂行できること、身体に障がいがある人でも働ける環境がつくれること、地方に雇用を生み出せることなど、たくさんのメリットがあることに気付きました。そこから2018年5月に初めて2人の社員を雇用し、現在では14人の社員がテレワークで働いています。

完全テレワークの雇用で工夫していることは、社員のチームワークを醸成する環境づくりです。テレワークで感じやすい孤独感や不安感を払拭したい、相互理解を深める働き方を推進したいとの思いから、出社して机を並べたオフィスで働く環境をイメージできるよう、常時Teamsというグループウェアに接続したまま業務を行い、社員同士いつでも質問したり、フォローし合ったりしながら働くことができるようにしています。その他、入社前後の自宅訪問や専門家を交えた月2回の面談等を通して完全テレワークで働く社員のサポートも行っています。

【テレワークで働く皆さん】

  • 質問事項:①居住地 ②障がい名 ③入社した理由 ④今後の目標

岡本おかもと 紀行のりゆきさん

①東京都②身体障害③就労支援センターで就職活動中、阪和興業の会社説明会に参加。社員の生の声を聞いてアットホームな雰囲気を感じ2021 年に入社。④業務を着実にこなして足元を固め、今後は新たな業務にも挑戦したい。

森本もりもと 美咲みさきさん

①北海道②精神障害③「話す」ことが中心のテレワークが、コミュニケーションに苦手意識のある自分の成長につながると思い2021年に入社を決意。④会社説明会などを通して阪和興業の良さを積極的に伝えていきたい。

かつら 良輔りょうすけさん

①和歌山県②精神障害③キャリアアップを目指して、知人を通して阪和興業を知り、2021年に入社。④「業務サポートチームといえば桂さん」と言われるように、他部署から頼りにされる存在を目指したい。

走川はせがわ 椋哉りょうやさん

①高知県②精神障害③地元の障がい者テレワーク推進事業の研修で辻さんと出会い、「この人となら話しやすい」と思い2018年に入社。④現在担当している業務を安定して行い、今後は海外の決算業務にも携わりたい。

景平かげひら 公彦きみひこさん

①高知県②精神障害③走川さんと同じく研修で阪和興業を知り、2018年に入社。④働く中で笑顔の回数が増え、チーム内で心理的安全性が醸成されていることを実感。今後もチーム内で助け合って体調を維持しながら業務に取り組みたい。

一人一人が能動的に働く職場づくりへ

このように当社ではさまざまな取り組みを行っていますが、グループ会社全体で見ると障がい者雇用に着手できていない会社もあり、これから検討が必要です。そのためには、障がいのある人ができる仕事を新たに作り出す必要があり、他業種との協働や特例子会社の設立なども視野に入れていきたいと考えています。

当社が目指す障がい者雇用は、企業方針である「自主性」を重んじ、事務職も受け身ではなく能動的に動き、戦力化した組織体制にすることです。ビジネスは「誰かの役に立ってこそ成り立つもの」であるように、「他者のために何ができるかを考え、利益を生み出すために行動する」という仕事の基本を、障がいの有無にかかわらず社員一人一人が意識してくれるよう、常にメッセージを出し続けています。

障がい者雇用に携わる方へのメッセージ

私自身、障がいのある息子がおり、営業から人事部に異動して障がい者雇用を担当することになったときは何かの縁だと感じました。そのような背景もあり、私はある程度すんなり障がい者雇用の業務に入っていけましたが、中にはそうではない方も多いと思います。そんな方にメッセージを送るなら、「『障がい者』と一つにくくるのではなく、一人の人を知りたいと思う感覚で接してください」と伝えたいです。障がいのある社員一人一人としっかり向き合い、強みを伸ばし、弱みをサポートすることを大事にしてほしいと思います。今回ご紹介した当社の取り組みが、各社で障がい者雇用を進める一つの参考となれば幸いです。


インタビューを終えて

2022年7月にダイバーシティ担当者が集う会合で阪和興業様の先進的な取り組みを知り、8月に大阪本社を訪問しました。インタビューでは、「阪和興業で働いてから、仕事でやりがいを感じることが各段に増えました」と生き生きと話してくださった社員の方の姿が印象的でした。さまざまな形で個々の強みを生かした働き方を実現する同社の取り組みにこれからも注目していきたいです。
インタビューにご協力いただいた辻さん、社員の皆さん、本当にありがとうございました。

政策業務第三グループ 乙咩愛海