商社が分かる

商社のダイバーシティ~Diversity & Inclusion~

~Voice~ 活躍する商社パーソン
「どんな状況でも自分の軸を大切に 納得できる人生を」

2021.3.15女性活躍推進

永井ながい 祐子ゆうこ

豊田通商タイランド
Vice President

1990年豊田通商入社。1993年総合職に転換。Toyota Tsusho America, Inc.、豊通マシナリーへの出向、物流部を経て、2020年より現職。

ロールモデルの発信を目的に、国内外で活躍されている商社の方々にインタビューを行っています。コロナ禍のため、第6回となる今回は、タイ・バンコクに駐在されている永井祐子さんにオンラインでお話を伺いました。
豊田通商の職種転換制度の第1期生として総合職へ転換され、女性総合職初の海外駐在をご経験された永井さん。これまで輸出入業務全般に携わってこられ、当会の委員会活動にも参加されていました。
先が見えず不安な状況の今だからこそ、温かいエールが詰まったこの記事がたくさんの方に届くことを願っています。

コロナ禍での海外駐在

2020年7月に、2度目の海外駐在地であるタイに赴任し、もうすぐで半年を迎えます。現在は豊田通商タイランド(TTTC)のVice Presidentと、物流関連会社(TTLS)のDirector、豪亜極統括会社(TTAP)にて豪亜極の物流担当を兼務しています。新型コロナウイルスの影響でコンテナ不足や移動の制限などさまざまな障壁がありますが、この状況が落ち着けば、ここバンコクをベースに豪亜極の各拠点を回り、輸出入管理や物流業務の現状把握、改善活動に取り組みたいと思っています。


バンコクの玄関口である
スワンナプーム空港貨物ターミナル

コロナ禍での駐在ということもあり、特に渡航前の手続きはとても大変でした。元々は2020年3月に赴任予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大によりフライト1週間前に渡航見合わせとなりました。それから約3ヵ月間は、赴任できる日を待ちつつ、赴任先のスタッフとオンラインでコミュニケーションをとったり、当時不足していたマスクや消毒薬などの輸出入手続きを本社で行ったりしていました。

7月になりようやく渡航のめどが立つと、次はPCR検査や申請書類の作成などにたくさんの時間と労力を費やす日々。本当に渡航できるかは直前まで分からない状況で、私も人事担当者も毎日神経がすり減る思いでした。
渡航後は隔離対策が徹底された2週間を過ごしましたが、食事も部屋に支給され、仕事も普段通りオンラインで行えたため、大きな不安を感じずに過ごすことができました。

仕事の幅を広げるため、総合職への転換と海外駐在を実現

今ではこうして海外で仕事をしていますが、最初は事務職として豊田通商に入社しました。当時、女性社員は結婚を機に退職する人がほとんどで、女性総合職はほんの一握り。そんな時に社内で初めて職種転換制度ができ、私は第1期生として入社4年目の春に総合職へ転換しました。転換を希望したきっかけは、より広い守備範囲で情報を得て、顧客を待たせることなく仕事がしたいという思いから。事務職の時は限られた情報しか持っておらず、顧客への対応が十分にできないことに申し訳なさと物足りなさを感じていました。ただ、仕事への熱意はあったものの、心のどこかでは「こんな私が本当に総合職としてやっていけるのか」という思いもあり、職種転換には直前まで踏み切れずにいました。しかし、周りの先輩・上司から背中を押され、総合職への転換を決意できたのです。

そこから総合職としてのキャリアを歩み、2005年、入社16年目で念願だった海外駐在が決まりました。元々女性総合職が少なかったこともあり、女性社員の中では初めての海外駐在でした。米国での駐在5年間でいろいろな経験をさせていただき、何があってもあまり動じなくなったのは、この時の経験によるところが大きいと思っています。

管理職としての心構え ―Managers can’t have a bad day

米国から帰国後、関連会社である豊通マシナリーへ出向したことも大きな転機でした。この頃から部下をまとめる立場につくことが増え、管理部門にいたこともあって、当時の社員約600人全員を自分の部下のように思い、接しました。管理職として当時から意識していることは、米国駐在の時に教わった「Managers can’t have a bad day」-感情的にならず、常に冷静であれという言葉です。そして、管理職に大事なことはDecision makingと部下のモチベーションアップ、そして部下を幸せにすることなので、これらも心掛けながら日々の仕事に取り組んでいます。

また管理部門は、会社の100年の計を作るところです。会社(社員)が迷わないように、私の業務で言えば安全に輸出入ができるよう、無用な損を出さなくて済むよう、転ばぬ先のつえを提供し、支援とけん制を行える部署にすることを常に意識しています。

これまでの経験・知識を活かせる場所へ

関連会社への出向を終え、本社の物流部に異動後、日本貿易会の安全保障貿易管理委員会ワーキンググループに約3年間参加しました。安全保障貿易管理に関してはまだまだ勉強途上でしたので、何十年もこの世界にいらっしゃる方々のお話は大変勉強になりました。月1回、1時間半ほどの会合でしたが、政府や他団体の動き、各国の思惑など、自分一人ではなかなか触れられない情報を得ることができました。また、その時々のホットな話題や各社の課題についてざっくばらんに意見交換したことも、大変貴重な機会となりました。

そんな時ふと、自分が役に立つ場所・仕事はどこだろうと考え始めました。入社以来、輸出・輸入の経験を積み、海外駐在や関連会社への出向を通じて、営業から管理部門、安全保障貿易管理、税関対応なども経験させてもらった私は、どこで何をしたら世の中に貢献できるだろうか。そう模索していた時、たまたまいただいたのがタイ駐在のお話でした。タイはまだまだ貿易が盛んでこれからという国。これまでの経験・知識を活かす場所はここだと思い、本当にありがたくお受けしました。

誰かの役に立つ存在を目指して

私が大切にしている言葉
「人事を尽くして天命を待つ」「明日死ぬと思って仕事しなさい(生きなさい)。永遠に死なないと思って勉強しなさい(byガンジー)」「やまない雨はない、明けない夜はない」「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」


タイ事務所での一枚

今後の目標は、粉骨砕身、24時間365日、世のため人のために役に立つことです。やりたいことはたくさんありますが、一番実現可能なところでは、海外で困っている人を助けることです。体力には自信があり、休日や夜中に働くこともいとわないし、海外経験もあって少しは英語ができます。混沌としている状態を解きほぐす(例えばルールを作って浸透させる)ことは向いていると思っているので、今は新型コロナウイルスの影響で難しいかもしれませんが、少しずつ実現できたらと思います。

自分を大切に、納得できる人生を

これまで私の経験をお話しさせていただきましたが、自信も何もなかった私がここまでこられたのは、その時々の上司を筆頭に周りの方々が私を受け入れ支えてくださったおかげだと感謝しています。

目の前のことに一生懸命取り組んでいると、物事は進むべき方向へ進むはず。最後に皆さんにお伝えしたいことは、自分が大事にするものや信条を軸に、納得できる人生を生きていただければ、ということです。こういう言い方は身もふたもないかもしれませんが、皆さん状況が異なり、目標や大事なものも違うと思うので、これが正しいとか、こういう人にならないといけないとかを言うつもりはありません。たまたまその過程に仕事があれば、それを頑張ることも良しですし、これじゃないと思えば仕事を変える・辞めることも良し。存分に悩んで、迷って、決断できなければできるまで待てば良い。自分の思う通りにならない時も、対処は一つではなく、現状打破を試みる人、上司に直談判する人、変わるまで待つ人、それぞれです。自分とよく向き合って、何があっても自分を見捨てないでください。自分を幸せにしないと人を幸せにすることはできないので、自分を大切に、周りを大切に。「ありがとう」と「ごめんなさい」が素直に言えるような毎日を送っていただきたいと思います。


インタビューでの一コマ
(上段:永井さん、下段:乙咩)

インタビューを終えて

この1年で日常がガラっと変わり、先の見えづらい日々が今も続いています。制限が多く大変な状況の中でも、常に前向きな永井さん。「物事はなるようになる」と背中を押されるようなお話を伺うことができました。
今回は初のオンラインインタビューということで、永井さんには事前準備を含め、大変お世話になりました。また、遠くの地にいても同じ時間を共有できるオンラインならではの強みも改めて実感しました。
永井さん、貴重なお話をありがとうございました。

政策業務第三グループ 乙咩愛海